「小皇帝」誕生パーティー見聞録

菅納ひろむ

る日、次男が幼稚園から可愛いインビテーションカードを持って帰った。「今度の金曜日、マクドナルドで僕の誕生パーティーをやります。ぜひ来て下さい」と中国語で書いてある。生まれて初めて、しかも中国の友達からのご招待!
   息子が通うのは、三里屯のバー街の真ん中にある三里屯幼稚園。大使館街に近いため、外国人の園児が30%程いるが、れっきとした中国の幼稚園であり、カリキュラム、言語ともに完全に中国スタンダードで運営されている。
   もう1年半も通っているので、かなり中国語でコミュニケーションができているはずなのだが、朝、自転車で送っていく際は、大抵急いでいるので、ゆっくりと子供の様子を見たことがない。  せっかくのお招きなので、当日は仕事を早退して父親自ら次男に付き添うこととした。うわさに聞く「小皇帝」の誕生会とはいかなるものか、次男はちゃんと幼稚園のみんなに溶け込んでいるのか、期待と不安で朝から親の方がソワソワしながら夕刻を迎えた。
ロウソクを吹き消す「小皇帝」
   マクドナルドの2階、子供用プレイルームがある一角を借り切ってパーティーが始まった。参加したのは10数名のクラスメート(出席率50%程度)、それに驚いたことに担任の先生まで自分の子供を連れて参加している。付き添いの親は、父親と母親が半々というのも中国的だ。日本ならまず父親は来ないところだ。私も他に男がいてホッとした。
   マクドナルドではしょっちゅうこうした催しをやっているらしく、専門のお姉さんがいてテキパキと会を進行していく。「ハッピー・バースデイ・ツー・ユー」を合唱したり、ちょっとしたゲームをしたり、といった具合だ。ハンバーガー、フライドポテト、ジュース類が、これでもか、というくらい出てきて、子供達がぱくつく。もう食べられないだろうと思うのに、そこはやはり大型の誕生ケーキが登場し、主人公の「小皇帝」クンが5本のロウソクを吹き消すところがクライマックス。結局ケーキもぺろりと平らげると、今度はプレイルームに河岸を変えて、後はひたすら騒々しく遊び続ける・・・と言うのが大体の進行である。
   その間、親と先生は、やはりハンバーガーを食べながら雑談に花を咲かせる。さしずめ非公式の父兄懇談会といった様相だ。中には話の輪から離れて一人で本を読んでたりするシャイなお父さんもいる。私は「言葉が不自由」だし、日本にいてもヨソの母親達と話すのは苦手なところ。でも、この父親を見て、私も安心して「懇談会」から離れてじっくり子供の様子を観察することとした。
   いやはや、子供達の遊びっぷりのパワフルなこと。やはり「言葉が不自由」な次男も、ちゃんと中国語を使って楽しそうに遊んでいる。少々の言葉のハンディは中国の子も本人もまったく気にしていないようだ。それどころか、ぶつかったり抱き合ったりして飽くこともなく遊び続けている。
   このようなパーティーが中国でどの程度一般的なのかはわからないが、少なくとも三里屯幼稚園のような高額所得者が多いと思われる幼稚園では、そう特殊な例ではないようだ。呼ばれた方も、ちょっとしたプレゼントを持って来てはいるが、さほど負担に感じている様子ではなく、割と標準的で気さくな感じの催しと見受けられた。家族同士ではもっと高級なレストランなんかでやるのかも知れないけど。
   主役の男の子も、この日ばかりは存分にわがままな「小皇帝」ぶりを発揮して楽しそうだったし、呼ばれた子供達もみんな可愛くて、幼稚園での様子がよくわかって親としても価値のある体験だった。
   帰途、次男に感想を聞いたところ「うん、てぃごいたのちかったよ*」とのことだった。そりゃ、あれだけ喰って遊べば楽しかろう。
   それにしても、小さい頃からたくさん中国の友達ができて羨ましい限りだ。

(了)


*注 「とても楽しかった」の意

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