何がおきてる?
中國經濟

         第四回

中国社会の胎動
−新たなコミュニティ建設の模索−

在中国日本大使館 専門調査員 小嶋華津子

年(99年)末、北京市は第二回都市管理工作会議を開催した。一昨年(98年)12月に次いでの開催である。
   両会議をつうじ一貫して改革の焦点とされているのが、「街道」である。北京市は従来、「二級政府(市・区)、三級管理(市・区・街道)」体制の下、区政府の派出機構として街道弁事処を設け、住民管理業務の一部を担わせていた。今回の街道管理体制改革の主旨は、これら街道弁事処の機能を強化し、都市管理・住民サービスの要所として再生しようというところにある。第一回会議では、99年末までの目標として、(1)衛生・治安維持・住民サービス等の分野における街道弁事処の職権・職責の明確化(2)街道弁事処に対する財政的保障、街道幹部に対する国家公務員待遇の賦与、街道幹部による企業幹部兼任の禁止、政企分離の徹底(3)法制管理の強化(4)街道弁事処機構改革の実施と人材確保(5)居民委員会の機能強化などをつうじた新しい街道管理体制の構築が唱われた(注1)。
   また、先日の第二回会議では、財政面・行政面の権限の下放による区・県レベルの都市管理機能の強化と、街道管理体制改革の継続的深化が次段階の主たる任務として示された。
   街道弁事処と、それを構成する住民の自治組織である居民委員会が、今日改革の対象としてにわかにクローズ・アップされてきた背景には、以下のような要因があると考えられる。
   まず第一に、治安維持の面からの必要である。流動人口の急増、就業形態の多様化、住宅制度改革の進展などにともない、社会の基層部分における都市住民の組織・管理は、ますます難しくなりつつある。住民に対する組織力の低下は、結果として犯罪率の増加、法輪功に代表されるいわゆる「不法組織」の出現・蔓延を招く。都市化のもたらす負の側面への対応は、ここ中国・北京においても差し迫った課題として認識されているのである。北京市では、すでに治安派出所を中心に、「治安聯防隊」・「城管監察隊」・居民委員会治安維持組織などによる治安・防犯のネットワーク形成の試みがなされており、居民委員会により組織された街道治安維持組織は既に5000に達するという。
   第二に、国有企業改革の一環として、企業単位から託児所・学校・病院・食堂などの社会運営機能を切り離した結果、街道や居民委員会は、単位に代わり各種住民サービスを提供する場として期待されるようになった。「単位人から社会人へ」――最近時折耳にするこの言い回しは、都市住民の生活の基盤が徐々に単位から街道・居民委員会を基礎とする「社会」に移行しつつある現状を示すものと言えよう。
   街道・居民委員会に期待されるサービスは、家政婦派遣、託児・養老、医療保健、修理工事、住宅仲介、職業紹介、文化娯楽など広範囲に及ぶ。そして、これらの分野について、市場経済を積極的に導入し、街道弁事処と所轄区単位の分業・協力により住民サービスの向上と企業の利潤追求を同時に達成しようという新たな生活密着型経済モデルが模索されている。新たなビジネス・チャンスと多くの雇用機会の創出――このような経済効果に対する期待も、街道管理体制改革を推進する動因の一つである。
   しかし、街道管理体制改革の実施には多くの困難も予想される。「政企分離」一つとっても、街道弁事処主任による企業幹部の兼任が当然視されてきた従来の状況を鑑みれば、その実施がもたらす多くの摩擦は容易に推測される。実際に三里屯街道など、街道幹部の企業運営による利潤を重要な資金源として発展を遂げたいわゆる「億元街道」では、政策の変化に対する動揺が生じているようである。
   街道管理体制改革の推進は、北京に限った現象ではない。街道・居民委員会レベルの共同体を呼ぶ名称として、最近「社区」(communityの中文訳)という概念が頻繁に語られるようになった。98年の機構改革で社区の建設は民政部の職務として明確に規定され、以来北京を含む全国11の「社区建設実験地域」で、様々なモデルが試行された(注2)。江沢民も、昨年10月の天津視察や11月の中央経済工作会議において社区建設の重要性に言及、「社会の安定と発展に役立つ社区の建設」は、既に都市建設における全国的テーマとなっているのである。  
   市場経済化の波は、中国の社会構造を着実に変えつつある。

1、改革の内容は、「北京市街道弁事処工作規定」(99年1月14日より施行)に具体化されている。
2、民政部によれば、中国における社区建設のモデルは、@街道管理体制改革と政府の権限の下放を主とする「準政府モデル」(北京・天津・南京・杭州等)A既存の社区サービス組織を発展させる「社区サービス延長型」B主な街巷を境界線とする1000−2000戸規模の社区を形成、社区住民と所轄区内の単位で構成される社区成員代表会議とその執行機関である社区管理委員会を組織する「瀋陽モデル」に分けられる。

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