犯罪にご注意(前編)

菅納ひろむ

節休みを北京でボーッと過ごしている。赴任以来五度目の春節、そろそろ最後かもと思うと何となく北京を離れがたく、つい「越冬組」になってしまった。本稿の締め切りやら、趣味でやってるバンドの練習やら、色々やらなければならないことは多くて、本当はぼんやりしている場合でもないのだけど、駐在員の宿命で年末から続いた「忘年会」やら「新春聯歓会」の疲れが溜まっているし、「初一」の今日は天気もすぐれないし……。そんな状態でパソコンに向かっているからか、ホノボノとした話題は浮かんでこず、結局書くことにしたのは「犯罪」の話なのであった。
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白雲観廟会にて 春節の風物詩「アメ細工師」
   実は、駐在してから四年経たないうちに都合三回犯罪に巻き込まれた。それも「目撃した」とか「間接的に影響を受けた」てなものではなく、「直接的に唯一の被害者となった」事件が三件! そのうち生命に影響があったかも知れず、かなり恐かったのが一件。厳密にいえば、他にも自転車を盗られた、なんてのもあるが、そんなの今や北京では話題にもならないので割愛。
   まず三つの事件を発生順に簡単に紹介すると、@置き引きに遭って重大な損害を被った事件、A四人組の強盗に襲われ殴打された事件、B三人組みの詐欺師に騙され軽微な金銭的被害を被った事件、ということになる。
   ああ、ここまで書いて自分でもイヤになってきた。しかし気を取り直して続けよう。
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東嶽廟廟会にて 大道芸人のお昼休み
   私みたいにあちこちウロウロしていると、楽しいこともあるし、恐い目にも遭う、と言ってしまえばそれまでだが、後で思えばいずれも少し注意すれば避けられた事件であった。そこで、ほとんど誰にも話したことのない話もあるのだが、ここは恥を忍んで読者諸兄姉の防犯の参考に供したいと決意する所存である。
   まず@の置き引き。これはまあよくある被害ですね。当時小学二年の長男と二人で賽特中心で買い物をし、タクシーに乗ればよいところを、ちょっと「北京通」ヅラをするのが嬉しかった頃でもあり、バス停でバスを待っていた。買い物した荷物を股の間に挟むようにして地面に置き、その上に何気なくセカンドバックを置いたのがいけなかった。バス停っていうのは独特なところで、大勢の人がいるにも関わらず、みんながバスの来るのを心待ちに、バスが来るべき方向ばかりを見ているので、一瞬の間に人の股の間にあるバッグを抜いたって意外に目撃者なんていないものなのだ。
   ホンの数十秒の間に、お金のたくさん入った財布、居留証、携帯電話、クレジットカードを失った。こんな大事なものを一つのバッグに入れて、人込みの中で手から離して置くなんて自殺行為であり、後に不明を恥じたものだ。
   幸い事務所が近かったし、キーホルダーだけはポケットに入れていて無事だったので、まず休日で閉鎖中の事務所に行って国際電話を拝借し、カード会社に連絡し再発行を依頼。ついで外事専門の派出所に出頭し、盗難届を出して、居留証の再発行等に備える。事務所の秘書さんにポケベルで連絡し、携帯電話もストップしてもらう。ちなみに後で知ったことだが、居留証を再発行するには、警察の盗難証明書を入手の上「北京公安報」という公安局の経営する新聞に遺失広告まで出さなくてはならないのであった(当然広告費が必要)。
   幼い子どもと一緒だったこともあり、生まれて初めてどぎつい悪意に遭遇したような気がして、しばらく精神的に落ち込んだ。前述のような手続きも色々あって処理が長引き、多くの人に迷惑もかけてしまった。
   その後は、現金は多く持ち歩かないし、セカンドバックはやめて、大型の鞄かウエストポーチを使うようになった。クレジットカードは財布とは別の場所にしまうことにしている。
   しかし、それでも更に二回の犯罪に遭遇してしまうのだから、まこと話の種は尽きないというものである。
   実は犯罪の珍しさ、話題性からしてAとBの方がずっと「面白い」のだが、紙面の都合で次回のお楽しみ。


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