「最近の中国IT産業に関する話題」 

 中関村レポート(X)

                                                        鹿児島県立短期大学教授
                                                  (北京大学光華管理学院訪問学者)

八杉哲


「最近の中国IT産業に関する話題」

外資規制業種の株式公開方法

 有力中国語portal4社のうち、中華網(China.com)は昨年NASDAQに株式公開し、続いて新浪網(Sina.com)が今年4月にその株式をNASDAQ公開したが、残りの2社、捜狐(sohu.com)と網易(NETEASE)の公開は難航している(523日現在)。Sina.comの公開価格17米ドル(417日)に対し、517日に発表されたニュースに株価が反応し、急騰した株価は55米ドル(5月22日現在)と公開価格を大幅に上回り、NASDAQハイテク企業の株価が急落するなか、堅調に推移する。

 Yahooで代表されるportalは、internet siteの検索サービスでsiteへのアクセス回数を稼ぎ、オンラインでの広告サービスとweb solutionsで収益を稼ぐのが、典型的なbusiness modelになっており、その収益性の高さはYahooで証明されているが、それにしても、よくここまで高値で株式が買われるなというのが実感だ。勿論、SEC登録された流通株式であるので、徹底したデスクロジャーが行われリスク要因が徹底開示され、またNASDAQによるタームリーデスクロージャーも行き届いている(webnasdaq.com参照)ので、建前としては、投資家の自己責任による株価形成であり、現在の株価は将来の事業展開などを充分に見越したものであると理解すべきであろう。

 但し、Sina.comの中国でのportal事業展開については、中国政策当局によるICPへの外資規制が存在し、同社が公開に先立ちSEC登録した開示資料には、外資規制の内容と、その外資規制をどう回避したかがrisk要因として明示されている。同社への株式投資に際しては、この点への熟慮が必要とされる。恐らくは、中国政策当局が、この外資規制の扱いを問題視し、他の2社、捜狐、網易のNASDAQ公開がまだ実現していないものと想定される。

 株式公開しているSina.comは、4つの子会社をもつ持株会社で、香港、台湾、大陸以外のその他地区はICP事業を100%出資子会社で運営するが、大陸には英中翻訳ソフト制作会社を中外合弁会社として保有し(出資比率97.3%)、そこを通じ間接的にICP事業に関与する。このソフト制作会社が、簡略文字でのportalwww.sina.com.cn)を運営するICP会社及びportal siteの広告を扱う広告代理店の2社と契約関係を結び、ソフト制作会社は、ICP会社に知的所有権の使用許諾と設備の貸与を行い、またICP会社の技術サービス提供会社として機能し、更に広告代理店にはコンサルティングとサービスを提供し、その代償として、ICP会社と広告代理店のすべての収入はソフト制作会社に支払われる仕組みを採用している。「中国の規制を充足するために」ICP会社の出資持分はSino.comCEO(中国国籍)と中国事業部門の総経理が個人で保有し、広告会社の持分は同CEOとソフト制作会社が共同で所有する。加えて、Sina.comCEO、総経理との雇用関係を解消したときには、純資産価格で持分をSina.comに移転することにしてある(括弧内はSina.comSEC登録資料(S-1)からの引用、下図も同資料から引用した)。

 中国か日本か

 デジタル情報革命の時代を迎え、日本と中国では、どちらがビジネスチャンスは豊富であるかと単純に問われた場合、金融Big BangとIT革新とが同時に到来した日本の方がビジネスチャンスは多そうだ。昨日今日の話で言えば、不動産投資信託(いわゆるREIT)のような規制緩和商品やITと金融の結合による金融の新しい方法などが続出し、またinternetを効率的に利用したサプライチェーンシステムを採り入れる日本企業が急増するなどB to Bビジネスが本格化しており、更にはiモード600万台突破に見られるようなmobile分野が急速に市場を拡大しており、こうした分野で技術、ソフト、コンテンツ、運営、サービスなどを提供する事業機会はきわめて多く、Sina.comに見られる外資規制もなく、株式市場をうまく利用できれば一攫千金も夢でなさそうだ。

 だが、グローバル時代を迎え、中国か、日本か、米国かというmonoでの選択肢を迫る問いは貧困に思える。クロスボーダーのビジネス指向が一番、ビジネスチャンスが多かろう。

 なぜ中国か

 5月中旬に米国San Joseで中国人技術者集団による新技術(LAS-CDMA)の発表が行われた。携帯電話によるデジタル通信の課題は「速度」であるが、発表された新技術では、通信速度が移動しながら5.53Mbps5530万ビット)と、現在の有線LANに近い通信ができ、現行方式と並行し得るものであるという。LAS-CDMAの技術評価はできないが、限られた周波数のなかでデータを圧縮して送信する多元接続技術(CDMA)の範疇に属するもので、技術的には類似の新技術が出てくる可能性の高い分野である。この技術もさることながら、技術者集団が採用したマーケッティング手法が注目される。記者発表文によると、1ヶ月前に本社をシリコンバレーから北京に移し、中国政府の支持により、中国にある移動体通信全社(3社)から本方式を採用する約束を取り付け、中国マーケットを押さえたうえで、世界市場進出のために、今回の発表を行ったという。

 このように、広大な市場をもつ中国と米国、日本等とのクロスボーダーな事業展開に、大きなビジネスチャンスが存在すると理解する。

 

戻  る