嫦娥は中国の昔話によく出てくるキャラクターで、月に住む仙女です。嫦娥に関する物語は多くあり、ここに紹介するのはその中の一つです。同系列の話でもこれ以外に@嫦娥が不老長寿の薬を西王母から盗んだとするもの、A嫦娥が薬を飲んだのは、思い上がった怩ェ皇帝の座を簒奪しようとして不老長寿の薬を飲もうとしたのを防ぐため、とするものもあります。また、嫦娥は「西遊記」にも顔を出しています。猪八戒は天上界にいたころ、嫦娥にセクハラ行為を行ったため、下界に落とされたとされています。また、嫦娥が飼っている兎(「玉兎」と言います)が下界に下りていき、三蔵法師一行に悪さを働くという一幕もあります。
ところで、その月に住んでいる兎ですが、日本では一般的に餅を搗いていると言われていますが、中国では不老長寿の薬を搗いていることになっているのも、おもしろい差だと思います。
昔々、天には十の太陽があり、地上には猛獣がはびこっていた。この十の太陽は皆天帝の息子であったが、天帝も持て余すほどの乱暴者。大地は十の太陽の熱に耐えられるはずもなく、海の水は干上がり、樹木は焼け、人々は熱くてたまらず、一人また一人と死んでいった。
天帝は、人々の害を除くため怩ニいう天の神を派遣した。怩ヘ妻の嫦娥を連れて下界に下った。怩ヘ真面目で力持ちの勇士で、特に弓に優れていた。彼は人々が太陽の害を受けているのを見て大変怒り、弓を取って一気に九つの太陽を射殺し、猛獣も退治したので、人々は安心して暮らせるようになった。
ところで、怩ェ射殺した太陽は天帝の息子である。天帝が怩下界に下らせたのは、なにも息子を殺させるためではない。ただ、怩ノ息子たちの管理をさせようとしただけだった。天帝は大いに怒り、怩ニ嫦娥を凡人とし、天上界から永久追放することにした。嫦娥は凡人になると、いつかは死ななければならないことを恐れ、そのことで怩ニ毎日喧嘩となった。怩ヘ嫦娥があまりにもうるさく言うので、たまりかねて不老長寿の方法探しの旅に出た。怩ヘ幾多の辛苦を舐め、ようやく昆侖山にたどり着き、西王母から不老長寿の薬をもらうことができた。西王母は「この薬は二人で飲むと不老長寿になり、一人で全部飲むと昇天して仙人になることができる」と言った。
怩ヘ大変喜んで家に帰ると、西王母の言葉を嫦娥に告げ、吉日を選んで二人で薬を飲むことにした。ところが自分勝手な嫦娥は、こうして凡人に落とされたのも、元はと言えば怩フせい、私はその巻き添えを食っただけだから、この薬は私一人で飲んでしまおう、と思った。そこで、ある日の晩、怩ェいないすきを見はからって、嫦娥は不老長寿の薬を全部自分で飲んでしまった。すると体が軽くなり、スルスルと天に昇っていった。
亭主を裏切った嫦娥は天上界でも居場所がなく、しかたなく、あの冷たい月宮に一人寂しく暮らすこととなったということである。
月に住む仙女・嫦娥