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連 載 |
第 九 回 |
菅納ひろむ
本連載の第二回で紹介した通り、昨年四月に北京日本人学校に少年野球サークルが誕生。毎週日曜に練習しており、私はコーチとしてお手伝いさせていただいている。
この一年余りの子供達の成長ぶりは大変なもので、当初は満足にキャッチボールもできなかったが、最近はノックでダブルプレーの練習なんかもできるようになった。
そうなってくると「力を試してみたい」と思うのが人情。子供達の希望もあって、指導を手伝ってくれている留学生ボランティアが対戦相手を見つけて来た。コーチとしては「可愛い子に旅」をさせたい反面、試合となるといかにも時期尚早なのがわかっていたのでやや躊躇したのだが、周囲の熱意に押されて、あれよあれよと言う間に練習試合が実現してしまった。
試合の相手は清華大学附属小学校の野球サークルで「彩虹隊」という。七月初めの日曜日、清華大学のキャンパス内にある同小学校のグランドに赴いた。我がチームが到着すると彩虹隊はすでに練習を始めていた。当日は四十度の炎暑だったが、相手の練習の様子を見て、監督も私も子供達も、うひゃ〜っと冷や汗を流したものだ。中国の少年達は紺色の本格的ユニフォームに身を包み、鋭い球を投げ合っている。動きも敏捷で、相当鍛えられているのが見て取れる。指導者が厳しく指導の檄を飛ばしている。父兄も大勢応援に駆けつけており、チーム名の入った横断幕まで張り出してあるではないか。
「これはいかん」と我がチームも小学生の精鋭メンバーを先発で送り出したが、やはりダメでした。ほとんど試合にならなかった。しかし、相手は終始礼儀正しく、元気なかけ声で最後までさわやかなプレーを見せてくれた。円陣を組んで声を出したり、試合終了後はこちらのベンチに来て整列して挨拶するなど「ベースボール」というより「日本式野球」の礼儀を我がチーム以上に身につけている。聞けば先方のコーチは硬式野球の元北京代表で、日本に野球留学をしたこともあるという。
試合後に行われた大人同士の親睦ソフトボールでは、かろうじて野球先進国の面目を保ったが、中国の大人は子供時代に野球をやったことがないのだからこれは無理もない。むしろ、おそるべきは子供達だ。清華大学附属小学校には、この彩虹隊の他にもっと強いチームもあるのだという。まだまだ野球の裾野は日本ほど広くないとは言え、このレベルの子供達が切磋琢磨していることを迂闊にも知らなかった。近い将来、日本のプロ野球や大リーグに大陸出身の選手がどんどん入団してくるようなことになるのかも知れない。
それにしても、野球で日中の子供達が交流できるとは楽しいことである。しかし、次に対戦するまでには、当方ももう少しはレベルアップして、失礼のないようにしなければ。それに何よりあのキビキビした動きと礼儀正しさ、元気の良さ、これも我がチームの少年達に見習って欲しいものだ。
試合前の整列。左が日本チーム、 初めての対抗試合にどきどき
右が「彩虹隊」
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