某国の首相のように、ITとICを間違えた人もいるくらいだが、昨今、何でもかんでもIT、あるいはインターネットばかりで、私も公私ともにITやインターネットの洗礼を受け、昼も夜もパソコンをパタパタたたく毎日になった。
パソコンを家でも使うようになったのは、北京に住んでからのことで、Eメールはもちろんだが、次にはじめたのはインターネットでの本の購入だった。日本、アメリカに始まって、オーストラリア、ニュージーランドなどの書店から、新本、古書を買った。インターネットのおかげで、北京で何年も探していた本を何冊も入手することができ、驚喜したりもした。
別に北京に関する本ばかり集めているわけではないが、試しに、「北京」をキーワードに日本のいくつかの書籍の通信販売のサイトを見てみると、「ブックポータル」は二八八点、「紀伊国屋」は五二五点、「BOL」は百十点、「日本の古本屋」は二百二十六点ヒットする。さらに欧米の大手の新本、古書の業者のサイトを調べると、数百点の「ペキン」関係の書名が続々パソコンの画面に登場する。これを大手の書店などの店頭で探そうと思ったら大変なことである。
さて、日本の古書店の組織が開いているあるサイトから、北京に関する古書を探してみよう。そうすると、本だけでなく、絵葉書や地図もかなり出てくる。まず、昭和三十八年。ある雑誌の『「北京の五十五日」特別号』が出ている。ハリウッドの映画の「北京の五十五日」についての特別号だ。確か若き伊丹十三氏が柴中佐の役で出演しており、中学生だった私は、同級生のS君と渋谷にこの映画を見に行った記憶がある。「北京の五十五日」は、一九〇〇年に起きた義和団事変(北清事変)についての映画だったが、この事変についての本も、このサイトで見つかる。明治三十二年に出版された服部宇之吉氏の『北京籠城日記』だ。この本は、その後平凡社の東洋文庫に入っているから、その原本だ。復刊となるとカナ遣いや漢字のみならず、単語までも現代人にわかりやすいように直されたりすると、「誤訳」されることもあるそうだ。そういった理由で、できれば原本を読むことが好ましいのは言うまでもない。服部氏は当時、東京帝大助教授で、事変では義勇兵として籠城した。
他にこのサイトには、この事変関係では、ウッドハウス暎子さんの『北京燃ゆ――義和団事変とモリソン』(平成元年)がある。売価は定価より安い。今の東交民巷(北京)での戦闘の様子と、オーストラリア出身、ロンドンタイムズの記者のモリソンの活動について、オーストラリアに保存されているモリソンの一次資料を使って書いている興味深い本だ。確か著者はモリソンの親族と結婚しているはずだ。今の王府井大街は、かって、この人の名を取り、外国人にはモリソン・ストリートと呼ばれていたこともある。
さて、その他の本はというと、慶大教授だった奥野信太郎氏の『随筆北京』(昭和十五年)もある。戦前に天華倶楽部というところから出た『中華北京料理の栞』なんていうのもある。昭和十三年、JTBから出た『北京遊覧案内』という本もある。ちょっと開いただけで、『北京』が充満している。
筆者PROFILE 櫻井 澄夫 SAKURAI Sumio
『北京かわら版』編集顧問。過去に、「中国でのクレジットカード」「北京カラオケ事情」「北京雑感」「北京の地名を歩く」「特別寄稿・毛沢東バッジの収集」「北京を愛した人」などを執筆。