中国美術探索

美への彷徨(五)



北京にも鑑定団登場?!

   日本で高視聴率を上げている番組に、皆様もご存知の「なんでも鑑定団」がある。陶磁器や書画といった代表的骨董類はもとより、時に「こんなものまで?」と思うような品まで、様々な物を持ち寄っては専門家達に鑑定してもらうあの番組だ。鑑定の結果、破格の鑑定結果が出る時もあれば、贋物と判定されて二束三文。意気消沈する依頼人たちのあの表情を見るのが、何とも後味を引いて止められない。
   こうした番組に投稿するまでもないが、自らの収蔵品をちょっと鑑定してもらいたいと思う読者の方々も多いのでは?とりわけ中国にお住まいの方々であれば尚更。----という訳で、今回は最近できたばかりという北京の「鑑定中心」を訪ねてみた。場所は北京市を東西に二分する中軸路沿いの北安徳里北大街21号。人民解放軍の「総政」を少しばかり南に下った、交通銀行の入った建物の三階にその鑑定所はある。正式な名称は「北京市文物鑑定中心」。北京市文物局の下部に属する機関とのことらしい。当面は週に一回、毎週金曜日の午前9時から、11時半までの2時間半のみ受け付けをしてくれる。鑑定の対象は磁器や青銅器そして書画の類で、1人の専門家がこれら真贋相入り交じった品々を瞬時に鑑定してくれる。料金は一件につき50元。尚、鑑定書を発行してもらう場合は、鑑定額によってその発行代金が違ってくるとのこと。
   
3階の「中商盛佳国際拍売有限公司」
の一室で鑑定が行われている。
さて、私が様子を見に行った時は、開門時間の9時を過ぎたばかりというにもかかわらず、既に会場は多くの依頼人でごった返していた。70を有に過ぎたと思われる白髪姿の鑑定人が、机の上に並べられた怪しげな品々を鑑定している。私が目撃した最初の依頼人の品は「玉器」だった。自らが”価値ある年代物“に違いないその鑑定人は、おもむろにその小さな玉を手に取り、その瞬間----ただ小声で一言。…「これはダメッ!」
   今まで口から泡を飛ばさんばかりに熱弁を奮っていた依頼人も、予想外のこの淡白な結論の出方に、乗り出した体がワナワナと萎んでゆく。依頼人にとっては正に天国から一気に地獄に落とされた思いだったろう。

   輝かしい中国歴代王朝の宝物を収める北京と台北の二つの「故宮」。近年来、科学技術のめざましい発展により、これら故宮収蔵の宝物の中にも随分と偽物が混入しているのが明らかにされた。とかく白黒をはっきりさせたいと思うのが人間の常なのだが、いくら科学が発達したとはいえ、実際の世の中そううまくはいかないようだ。白と黒の間にある灰色。言い方によっては白でもあり、また黒でもある。まったく違う色を持って来て、むやみやたらに白や黒だと言い張るのは大きな誤りに違いないが、こうした”微妙な存在“を否定するのもまたおかしい。
   偽のタバコ、偽の酒、偽のCD、はたまた偽札と、とかく偽物の多い中国だが、数千年の歴史を有するこうした美術の類の偽物から見れば、こうした物もまだまだ子供と言わざるを得まい。「偽酒を飲んで、死ぬのは御免!」と思われる方----「ものは試し」----それ相応の金額をはたいて購入したお宅の「お宝」、この機会に鑑定してもらっては如何でしょうか?もしかしたら「ムッ…いい仕事してますね〜。」という、あのお決まりの中国語バージョンが聞けるかも…。

北京市文物局鑑定中心 電話:64265431

執筆者プロフィール  
   和田廣幸(号・大卿)  
   中国美術・工芸品専門店「運甓斎」(光明飯店2階)総顧問
   unpeki@public3.bta.net.cn

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