というものでした。 もっとも、集合{P},{Q}の正体は 実際のところ、よくは わかっていませんでした。Booleは先ほど見たように、{P},{Q}を それぞれ P,Qが成立する時間の集合と考えたのでしたが、確かに そのように考えられる場合もあることはあるのですが、かといって いかなる場合にも この解釈が通用するわけでもありません。
...例えば、[ダイナマイトに点火すれば、爆発がおこる] という文の場合は この解釈でよいでしょう。
しかし、[酸素が無ければ、ヒトは生存できない] という文の場合は どうでしょう? この場合は 時間というより むしろ、場所です。
一方、[x が4の倍数ならば、x は偶数である] という文を
と解釈するのは、かなり 苦しい。 この場合は 時間や場所など持ち出さず、 単純に
と解釈すべきです。 このように、正に "あちらを立てればこちらが立たず"の呈で、[PならばQである] を {P}⊆{Q} と解釈する説では 集合{P},{Q}の正体が なかなか一筋縄では捉えられないのですが、それは ひとまず棚上げにしておいたとしても、この解釈には 次のような 難題が控えていたのでした:−.
[PならばQであり かつ QならばRである ならば、PならばRである] に でてくる'ならば'は いったい どんな集合の包含関係に
対応したものなのか? |
このように論敵に問われた時、(1)の見解に立つ人々は沈黙せざるをえなかったのでした。
..以上のような困難からだったであろうと想像されるのですが、Fregean理論では [PならばQである] を {P}⊆{Q} とする解釈は採用されず、かわりに 次のような見解がとられることになりました。 それは、.
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というものです。 もっとも、仮言命題についての このような見解は Frege に始まるというわけではなく、早くは 紀元前4世紀に古代ギリシアの フィロン という メガラ派の哲学者が 唱えていたものでした。.
..尚、Fregean理論では さしたる根拠もなく、[PならばQである] と [PはQを内含する] とを 同義と見做しているのですが、果たして.本当にそう考えてよいのか.という問題も.あります。.
まあ、この点は それほど大きな問題も引き起こしはしないように思われますので、ここは 一歩ゆずって、当面、これらは 同義と考えておくことにしましょう。.
..さて、では この見解(2)には充分な論拠があるのか と言えば、残念ながら そうではありません。 Principia Mathematica で これについての それらしき論拠を捜してみると 次のような記述が見つかります。.
..………..if p and 〜.p.v.q are both true, then q is true...In this sense the proposition 〜.p.v.q
.will be quoted as stating that p implies q..(.Vol.T, Introduction, ChapterT, p.7, lines 5〜6.). |
...つまり、こういうことです.:−. Pであって[PならばQ]であれば Q が結論.される。 一方、 Pであって[Pでないか又はQ]であっても Q が結論.される。 よって、[PならばQ] は [Pでないか又はQ] のことなのだ と考えられる.(.!.)。.
....これは、「P&.X.から Q が推論でき、かつ P&.Y.からも Q が推論できる.ならば、.X と Y とは同義.と見做.してよかろう」.との判断.に立脚しているわけですが、果たして.これが妥当.な判断.と言えるでしょうか? 下の例 参照。.
.
[PはQを内含する]: [8は4の倍数である は 8は偶数である を内含する] -------- 直感的に 考えて、正しく、 一方、[Pでないか又はQである]: [8は4の倍数でないか 又は 8は偶数である] -------- も 正しいので、. この場合については 問題ない。 |
[PはQを内含する]: [月はスッポンである は 8は偶数である を内含する] -------- 直感的に 考えて、ナンセンス(又は 誤り)である。 一方、[Pでないか又はQである]: [月はスッポンでないか 又は 8は偶数である] ------ は 一応 肯ける。 したがって、この場合、[PはQを内含する] と [Pでないか又はQである] とを 同義とするのは 問題である。 |
...そこで、Russell.等.の.Fregean論者が取った手段.は、[Pでないか又はQである]を."広義の内含".あるいは"実質的な内含".と.見做すことでした。.つまり、[Pでないか又はQである].とき、[PはQを.広義に/実質的に.内含する].と考えるわけです。."狭義の(つまり、本来の)内含".の正体を明確にせずにして、いきなり."広義の内含".とか."実質的な内含".と言うのも.妙な話なのですが.…。.
.. では、曲がりなりにも それで問題は収まるかと言えば、それが 決して そうではないのです。
...Clarence Irving Lewis (1883-1964) というアメリカ人の論理学者は.次の様な.おもしろい例.を.あげて.Russell に論争を挑みました:−
Fregean理論では、[P⊃Q]∨[Q⊃P].も.定理になる.ので、新聞の紙面などから任意にとった二つの命題について.どちらか一方が他方を(広義には)内含する.と言わざるを.得ないことになる.というのです。.
...ここで、私たちは もっと 決定的な事例 を あげて、Fregean論者に 致命的一撃 を下すことにしましょう。
.[Pでないか又はQである]: [ライオンは哺乳動物でないか 又は ライオンもクジラも 共に哺乳動物である] ------- こちらは真です。 |
.....とまれ、Fregean理論では [PはQを内含する].と.[Pでないか又はQである] との関係を 見誤っているのです。 これは 次のように 言うこともできるでしょう:−..Fregean理論では [PならばQである] という命題の正体が正しく捉えられていない。.
.....こうして、"論理改革" は 仮言命題の正体を解明するすることから 始まったのでした。 これは 最初の そして 後から振り返っても 最大の.難所でした。.そこには いくつもの難問 が 複雑に絡んで縺れあっており、先ほどの例に一層 輪のかかった "あちらが立てば こちらが立たず"の呈をなしていたからです:−.
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