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決勝トーナメント制の是非(1)

 プロ野球のパ・リーグで、来シーズンからプレーオフ制が導入される。シーズン2位と3位のチームがまず3回戦を戦い、その勝者が1位のチームと5回戦を戦う。そこで勝ち抜いたチームが、日本シリーズの出場権を得るという方式だ。

 すでに言い尽くされた批判だが、この方式だとリーグ3位のチームが日本シリーズに出場する可能性もある。首位に何十ゲーム差をつけられていようと、最後の数試合だけで逆転が可能である。出場権を失った首位チームにすれば、135試合も戦って勝ち取ったものはいったい何だったのか、ということになる。今シーズンのセ・リーグでこのような事態が起これば、間違いなく暴動が起こるだろう。

 ところが、これと似た方式を数年前から採用しているのが、他ならぬソフトボール界である。日本リーグではご存知のように、’99年からリーグ1位〜4位のチームによる決勝トーナメントを実施している。ページシステムの採用で1,2位が優遇されてはいるが、22試合もかけて決めた順位を、最後の2,3試合だけで覆してしまうシステムであることには変わりがない。五輪でもチーム数の違いこそあれ、同じ方式を採用している。

 実際、リーグ1位のチームが決勝トーナメントも制して、文句なしの優勝を決めたのは、’01年の豊田自動織機しかない。’00年優勝の日立ソフトウェアは、リーグでの成績は3位だった。そのソフトも、’99年にはリーグ1位になりながら、決勝で涙を呑んでいる。

 シドニー五輪でも、トータル8勝1敗の日本が、同7勝3敗の米国に金メダルを奪われたのは記憶に新しい。ルール上起こりえることとはいえ、切歯扼腕した日本人も多いことだろう。

 また日本リーグでの決勝トーナメント制は、リーグ戦そのものにも悪影響を及ぼしている。優勝を狙う監督は、開幕から決勝トーナメントに照準を当て、リーグでは4位までに入ればよしとして作戦を立てる。田中監督(豊田自動織機)など、「うちは1位は狙わない。そのぶん決勝トーナメントにすべてを集中する」と明言している。勝負師の田中監督らしい発言だが、どの監督も口に出さないだけで事情は同じだろう。

 しかしその結果、本来ならリーグ戦の天王山となるべき上位対決が、単なる探り合いで終わってしまうことになる。決勝トーナメントでの再戦を見据えて、両チームともエースを温存するからだ。

 例えば今シーズンの場合、昨年の4強による直接対決は、6節までに6試合行われている。4強のエースを、ルネサス・上野、ミキハウス・ローチ、織機・スミス、ソフト・遠藤とすると、のべ12人の先発投手のうち、エースは3人しかいないのだ(表の網掛け部分参照)。

4強の対戦成績と先発投手
チーム 先発 得点 先発 チーム
第2節 ルネサス 前田 3-0 帰山 ミキハウス
第2節 織機 高山 5-4 入山 ソフト
第3節 ミキハウス ローチ 1-0 山ア ソフト
第3節 織機 高山 2-0 前田 ルネサス
第4節 ルネサス 上野 3-0 山ア ソフト
第4節 織機 スミス 3-0 柳生 ミキハウス

 黄金カードと期待して訪れた観客にはいい迷惑である。エースが登場する決勝トーナメントは盛り上がるだろうが、4試合のために十数試合にのぼる上位対決から真剣勝負の迫力が薄れては本末転倒だ。

 しかし決勝トーナメントを廃止してリーグ戦だけで順位を決めるようになれば、すべての試合を必勝態勢で臨まざるを得なくなる。トーナメントと違って、敗れても取り返しが効くとはいうものの、勝率で並んだ場合は直接対決の成績がものをいうから、上位対決での敗戦は後で致命傷になりかねない。そうなれば、両チームとも、ありとあらゆる策を使って勝ちをもぎ取りに行くだろう。このような壮絶なゲームが、シーズンに十数試合も見られるようになるのである。

 そもそも決勝トーナメント制は、日本リーグに初めからあったわけではない。’94年に2セクション制が導入された際に初めて採用されたのだ。だから当時の決勝トーナメントには意義があったが、2セクション制が廃止された’99年以降も、決勝トーナメントだけは奇妙な形で残っている。

 もちろん、廃止に伴うデメリットもある。いつどこで優勝が決まるかわからなくなるから、マスコミが記者を派遣しにくくなる(面倒だから記者を送らない、というマスコミも出てくる)。一般ファンでも、優勝の決まる瞬間だけは見たいという人も多いはずだ。

 また、表彰式をどのように実施するのかという問題もある。優勝決定直後に行うのか、全カード終了後に行うのか。表彰対象チームが2会場に分かれていたらどうするのか。現行方式なら、表彰対象のチームはすべて西京極にいるし、決勝の後でスムーズに表彰式に移れる。これらの点に対する解決策を、次回に書く。

(2003.8.11)

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