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アテネ敗因の検証(2)

長距離砲不在

 得点力不足に悩んだ日本だったが、実は日本のチーム打率は.236で全チーム中2位。アメリカの.343は別格とすれば、それほど悪くない。しかし肝心の得点は、アメリカ51点、オーストラリア26点に対し、日本は18点。さらに本塁打数となると、アメリカ9本、オーストラリア5本、日本を含む他の国は0と、圧倒的な差が開く。これで勝とうというのだから、投手陣に相当な負担がかかっていたことは間違いない。
 実際、アメリカは4度のコールド勝ちによって56回しか戦っていないのに対し、日本は66回。この長丁場を、アメリカより少ない実質3人の投手で乗り切ることを余儀なくされたのだから、投手陣の苦悩は察するに余りある。

 宇津木監督が大砲と頼んだのは、山路、斎藤、宇津木の3人だろう。実際には、山路が3割近く打ったものの、残る2人は2割前後と低迷。もちろん本塁打はゼロである。今年の日本リーグ前半戦でも、今回のメンバーで本塁打を打っているのは山路(1本)だけだった。
 もちろん、リーグで複数の本塁打を打っている選手もおり、日本に長距離打者がいないわけではない。日本代表にはいなかった、というだけである。

※オーストラリアは10試合、アメリカ・日本は9試合での記録

守備の破綻

 しかし日本の敗因で最たるもの、そして計算外だったものといえば、やはり守備の破綻だろう。
 ここまでに挙げた他の要因は、機動力重視を掲げた以上、予想できなくもなかった。しかし、シドニーでアメリカを粘り倒し、その後もお馴染みの「速射砲ノック」で鍛えた守備力だけは、世界に冠たるレベルにあると考えていた。
 しかし終わってみれば、日本のエラー数は9で、イタリアと並んで8チーム中3番目に多かった(1,2位はギリシャ、カナダ)。日本最大の強みが失われたとあっては、金メダルなど望むべくもない。

 特に宇津木の惨状は目を覆うばかりだった。観客・視聴者を唖然とさせ、高山樹里の集中を切れさせたアメリカ戦での落球は言わずもがな。初戦のオーストラリア戦でワイボーンの打球をはじいたのを皮切りに、ギリシャ戦でも2度にわたってゴロの処理を誤る(記録は1エラー)。大会終盤になれば、投手や遊撃手の内藤が宇津木のフォローに回るようになっていた。
 正三塁手としては明らかに動けなくなっている41歳に拘った宇津木監督の責任も大きい。宇津木の打撃は捨てがたいと思ったかも知れないが、ならば三塁に佐藤理恵を置いて、宇津木を代打要員とする選択肢もあったはずだ。

 他の野手陣も、肝心な場面でミスを犯した。カナダ戦の敗戦につながった伊藤の後逸、アメリカ戦で手痛い2点目を呼び込んだ岩渕のファンブル、オーストラリアとの3位決定戦で左前安打を三塁打にしてしまった佐藤由の後逸。「安藤美佐子の後継者」とされた三科も、不安定なプレーで2失策を記録した。ミスがなかったのは山路、内藤、山田といった、ルネサス以外に所属する選手というのも皮肉だ。
 イレギュラーバウンドで情状酌量の余地のあった伊藤を除けば、守備の乱れた宇津木、岩渕、佐藤由、三科らの選手は、打撃も不振だった。1点を争う試合展開で、バットで貢献できていない焦りが守りにも、悪影響をもたらしたのではないだろうか。

宇津木監督の功罪

 世界4位のチームを受け継いで、一時は女王・アメリカに肉薄する強豪を作り上げた功績は認めたい。しかしそのチームを再び弱体化させたのも、また宇津木監督だ。
 機動力重視のソフトを打ち出したのは、昨年秋のジャパンカップの頃と記憶する。その方針には筆者も賛同したが、本番まで1年を切った時点での方向転換は、指揮官の迷いをも感じさせた。結果、転換に伴う新しい戦術はチームに植えつけられず、また新方針に適応できそうにないベテランも切れず、これといった強みのない中途半端なチームになってしまった。

 宇津木監督に続投の意思はあるようだが(参考)、約7年という月日が与えられ、それでも目標を達成できなかったのだから、宇津木監督には潔く辞任してもらいたい。
 特定チーム中心の選手選考、打撃力の軽視、精神主義的なスパルタ練習、長期政権によるマンネリ化など、ソフト全日本チームの負の側面が、今回の敗戦でソフトファン以外にもさらされた。シドニーの躍進で新たなファンを獲得できたが、アテネでは期待を裏切られたぶん、逆にファンが離れつつある。今ソフトボール界は新しい風を必要としている。

(2004.09.01)

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