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庵野監督の最新作『彼氏彼女の事情』がエヴァ開始からほぼ3年ぶりの10月2日より放送開始となった。今年3月の発表当時は「あの庵野監督が少女漫画?」と驚いた人も多いかもしれないが、それから半年がすぎいつしか驚きも消えうせて、今現在放送されている番組を楽しく見ている人も多いのではないだろうか。
そういった人達で『カレカノ』は「普通の少女漫画アニメ。もしくはその発展型」だと思っている人もいるだろう。でも本当にそうだろうか?
古くからの「女の子アニメ」「少女アニメ」というとやはり魔法がらみのものが多い。もちろんそれは女の子に「魔法」という夢を見せるという目的があるのだろうが、では肝心の作品内容が視聴者である女の子たちの心に残ったのか、共感を得たのかというとあまりそうではないように思う。どちらかといえば「魔法」という設定に頼った番組作りではなかっただろうか。
もちろん魔法のない少女向けアニメもあった。しかし『キャンディキャンディ』『はいからさんが通る』『炎のアルペンローゼ』など外国が舞台であったり現代ではなかったりと、「夢を見せる」という意味でなのだろうが、現実の日本を舞台にした作品ではない。また、これらの作品は少女が主人公であるが、基本的にストーリーを見せることが作品の核であり、少女の心情を丹念に描くということもほとんどない。いかにアニメが「非日常」に頼ってきたか。わかろうというものである。
では魔法物もスポーツ物を除外し、現代日本のお話で、恋愛面がメインの作品というとこれはつい最近になってからであり、『ママレードボーイ』『水色時代』『あずきちゃん』『こどものおもちゃ』『センチメンタルジャーニー』ぐらいしかないのである。等身大の恋愛面を描くために、全て学園物になってしまうのは説明するまでもない。
ここでやっと『カレカノ』の話になるが、おわかりの通り現代の学園物の少女漫画という時点で非常に珍しい。まして高校生の学園物、高校生の恋愛というのは初めてである。そしてもう一つの「少女の心情を丹念に描く」という意味で、まさに少女漫画であるし、それを核にもってきた作品ということでこれは初の試みではないかと考える。実際に放送されたものを見ると、ここまで主人公の女の子の心情を、少女漫画の感性のままにフィルムにしようとし、それに成功している作品というのはTVアニメにおいて初めてではないだろうか。
少女漫画というのはコマの形やふきだしなども表現の一つとして使用する、感性に訴えかける表現としては高度なものである。それをアニメで実現しようと思ってもなかなかできるものではない。ただ動く「アニメーション」ではなく、アニメを素材にした「フィルム」を作り、それを表現せしめなければならないのだ。
それに挑戦する庵野監督及びにガイナックスのスタッフにエールを送りつつ、初めて公共の電波で流される「少女漫画アニメ」を楽しみにしていきたい。
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恋愛物…というと、どういった内容を思い浮かべるだろうか。
「惹かれ会う二人が擦れ違いを続ける」「あこがれのあの娘と急接近」であるとか、もちろんその醍醐味は恋が成就する過程である。少年漫画では80年代になってラブコメブームが来ると、主人公が気になるヒロインと近づけそうでうまくいかないといったシュチュエーションを延々続けるというケースの漫画が多かった。もっと後期になれば、主人公が何もせずにあっというまにヒロインとうまくいってしまうようなのまで出てくる。完全に自己の欲望がそのままの形で反映されているのである。実際これは少女漫画の世界でも、男女を逆にしただけで同じような傾向だったのではないだろうか。加えてTVドラマなどでも同じことのように思う。
考えてみると欲望が反映されている、もしくはそれを望む人達に求められて作られたものであるのに「うまくいく=完結」であり、両想いのその後を描いたり、またその作品上にカップルが出てくることはまずなかった。自分が子供の頃に読んだ漫画(例えば小山田いく氏の著書『すくらっぷブック』など)ではカップルはごく自然に登場していたはずなのに…。
その理由としては、両想いで満足してしまうのかそれともその先は興味がないのか想像できないのか、などと考えることができる。とにかく恋愛というのは、恋がうまくいくかいかないか、それだけを指す言葉に変質していった気がする。
さて、そこでこの『カレカノ』である。ご存じの通り、この作品はあっというまに両想いになるがそこで作品は終わらず、そこから二人の関係の親密さが徐々にあがっていく様が描かれていく。少女漫画で主人公がカップルというのでさえなかなか珍しいが(山口美由紀氏の著書『V-K☆カンパニー』など)、二人の関係の親密さを順を追って描写していくというのは、本当に珍しい少女漫画かもしれない。普通に考えれば主人公が恋人とラブラブというのは、読む手にとっては「ごちそうさま」と敬遠することにもなりかねないが、この原作は別段気に触らずに読むことができる。そこは特に評価したい。
それと同時に私がこの作品で特に評価し、注目してもらいたいことがある。
「カップルの良さを描いている」ということである。
例えば、TVドラマなどで恋人同士の片方が恋愛面以外の事でトラブルを起こしたとする。するとそれが「別れる、別れない」の話に発展してしまう。本来ならば、そのトラブルを二人でどう解決するか考えるのが普通なのに。
つまり、恋人同士の問題とは「別れる、別れない」ではなく「どうつきあっていくのか」ということを考えなければならない。そういう事も踏まえた上で「恋人がいる幸せ。安心感。不安」といったものがあるはずであり、そういったことを描きつつ「カップルっていいなぁ。カップルになりたいなぁ」と見た人に思ってもらうために「カップルの良さ」というのは描くべきだと考える。かつてのカップルが存在する少年漫画でさえ、そういう感覚を確かに感じたのだから。
この『カレカノ』は特にそういう部分が強いと思うので、最近そういう感覚の作品がなかった分、注目してみてほしい。
これは原作に対する意見であるが、ぜひともそれをアニメ上で表現し、テレビの前の多くのティーンエイジャーにその感覚を伝えてほしいものである。