以下に、スタッフの1997年度の業績を紹介する。掲載順は、@発表年月、A「論文名あるいは発表題目」あるいは『書名』、B(種別)、C所収 (発行者)あるいは発表会名(会場)の順である。他の者との連名のもののみAの後ろに論文掲載順あるいは発表時掲載順に名前をあげた。
Japanese Linguistics Lexical Database
研究課題 国語学論文所収語彙データベース
委 員 長 西端幸雄 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・教授(国語学)
種 別 文部省科学研究費補助金「研究成果公開促進費」(データベース)
年 次 1997年度(5年計画の1年目)
申請番号 1997年度55
組 織 名 JALDA作成委員会
副委員長 江川 清 国立国語研究所・情報資料研究部長(国語学)
委 員 ダニエル・ロング 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・助教授(国語学)
伊藤鉄也 大阪明浄女子短期大学・助教授'(国文学)
交付金額 1997年度6,190,000円
研究概要
本データベースは、『日本語学論説資料』(旧称 国語学論説資料・論説資料保存会編:1963年〜1993年・31巻
延べ133分冊、1996年10月現在、以下同じ)や雑誌『国語学』(186冊)『訓点語と訓点資料』(98冊)『日本語学』(174冊)などに所収の論文内において論述されている語句(単に用例として掲出している語、また語彙索引、用例集や英文論文などは除外:以下、論述語句と略す)をデータベース化し、その検索の便を図り、主として国語学・日本語学における語彙研究に資するものである。試作段階での1分冊あたりの所収論述語彙は、5,000語ほどであることから、他の雑誌論文も加えると最終的には、延べ約900,000語を越える論述語彙のデータベースとなる。
@平成8年度中に、『日本語学論説資料』28〜31(1989〜1993年版)21分冊中に収められている論文を対象として、試行的に、論述語句を抽出し、データベース化を行った。
A平成9年度は、『日本語学論説資料』の既刊分のうち20冊・論文数約2,300本(収録論述語句数延べ約80,000語)をデータベース化を行った。
B平成10年度は、『日本語学論説資料』の既刊分のうち30冊・論文数約3,300本(収録論述語句数延べ約100,000語)のデータベース化を行う。
Japanese Speech Corpora of Major City Dialects
研究課題 日本主要都市方言音声データベース
委 員 長 田原広史 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・助教授(言語情報処理)
種 別 文部省科学研究費補助金「研究成果公開促進費」(データベース)
年 次 1997年度(5年計画の5年目)
申請番号 64
組 織 名 JCMD作成委員会
副委員長 江川 清 国立国語研究所・情報資料研究部長(社会言語学)
委 員 杉藤美代子 大阪樟蔭女子大学・名誉教授(音声学)
板橋秀一 筑波大学・電子情報工学系・教授(情報工学)
西端幸雄 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・教授(国語学)
交付金額 2,590,000円
研究概要
本データベースは、日本全国13主要都市における方言を対象とした、音声情報データベースである。まず、ディジタルオーディオテープ(DAT)に収録された音声を取捨選択し、編集をおこなった後に、比較的長い文章はCDとして、短文、単語などの短いデータは、パーソナルコンピュータで検索、分析ができるようにCD-ROMとしてデータベース化していく。音声編集にあたっては、DATからディジタル信号のままパーソナルコンピュータに取り込み、音声を評価し、雑音を除去しながら個々の音声にばらし、それぞれを1ファイルとして光ディスクに書き込んでいく作業が中心となる。できあがった音声ファイルを分類し、検索用データ、検索用プログラムを加えた後、CD-ROMに焼き付け、データベース化する。
本年度は最終年度(5年目)を迎え、予定している10地点のうち、残りの弘前市、新潟市のデータの編集を中心に作業をおこない、予定通り完了した。これで1地点20人で10地点分、総計200名の音声データが編集を終えたことになる。このうち、朗読音声については、本研究期間内に5枚のCDデータベースとして公刊した。単語音声に関しても、本年度、重点領域研究「人文科学とコンピュータ」総括班刊行物『JCMD大阪』としてCD-ROM化をおこなった。
研究課題 方言音声データベースの作成と利用に関する研究
代 表 者 田原広史 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・助教授(言語情報処理)
種 別 文部省科学研究費補助金重点領域研究
年 次 1997年度(3年計画の3年目)
課題番号 09204107
分 担 者 江川 清 国立国語研究所・情報資料研究部長(社会言語学)
杉藤美代子 大阪樟蔭女子大学・名誉教授(音声学)
板橋秀一 筑波大学・電子情報工学系・教授(情報工学)
交付金額 1,000,000円
研究概要
この研究は、重点領域研究「日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究」(平成元年〜4年度)の中で収集された、全国各地の方言音声資料を整備(データベース化)し、より効率的な利用、流通を目指すものである。この研究で収集された音声資料のうち、13主要都市(札幌、弘前、仙台、新潟、名古屋、東京、富山、大阪、高知、広島、福岡、鹿児島、那覇)で、一都市につき、5世代男女計70名、約500項目についてディジタル録音された資料の一部をデータベース化する。この資料については、「日本語音声」終了後、平成5年度より新たに成果公開促進費(データベース科研)を受け、「日本主要都市方言音声データベース」として5年計画でCD、CD-ROM化のための編集作業をおこない、平成5〜7年度にCD計5枚、平成8年度にCD-ROM1枚(試作品)を作成した。
このような背景をふまえ、本研究では研究の目的として次の三つを設定した。1)「方言音声データベース」そのものをより整備されたものにすること。2)検索、分析のためのツールを開発すること。3)当該分野(言語学、音声学、国語学、日本語教育等)における利用者を開拓し、利用のためのルール作りを行い、流通化を促進すること。この3点について研究を進めてきた。その成果を、最終年度である平成9年度の成果として、CD-ROM版データベース『JCMD大阪』にまとめ、総括班より刊行した。また、3年間の研究成果を報告書としてまとめ、『JCMD大阪』の添付資料も同時に刊行した。
研究課題 東大阪市における方言の世代差の実態に関する調査研究
代 表 者 田原広史 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・国文学科・助教授(社会言語学)
種 別 東大阪市地域研究助成金
年 次 1997年度
分 担 者 村中淑子 徳島大学・総合学部・人間社会学科・助教授(日本語学)
交付金額 1997年度455,000円
研究概要
この研究では、東大阪市域における方言について、世代差を中心とした調査と分析をおこなっている。調査内容は、現在、当地の方言を論じる際に必須であるにも関わらず、詳細な実態が明らかになっていない「単語アクセント」および「待遇表現(敬語)」である。
単語アクセントに関しては、現在、京阪アクセント地域で体系的変化が起こりつつある2拍名詞4類(海、糸、肩など)、5類(猿、雨、秋など)を中心に、1998年3月に60名について調査をおこなった。その成果を、1998年10月に九州大学で開催された国語学会秋季大会において、「大阪アクセントにおける2拍名詞4類・5類統合の実態について」(村中淑子・田原広史)と題して口頭発表をおこなった。現在、研究論文として投稿準備中である。
待遇表現に関する問題点としては、近畿中央部には、学校で習う共通語の敬語ではなく、自分たちのことばとしての方言の敬語があるが、当地における使い分けの実態は必ずしも明らかになっているとは言えないことがあげられる。われわれは、話し相手や話題の人物の動作を敬ったり、親しみを込めるために、「行きハル、行きヨル、行きヤル」といった使い分けをおこなっている。また、自分の動作を相手に持ちかける際にも、「行くナ、行くネ、行くワ、行くノ、行くデ」といった、終助詞による微妙な使い分けをおこなってる。使い分けの基準は、その人物との関係がいかなるものか(年齢や身分が上か下か、親しいか親しくないか)、自分を話し相手にどのように見せたいかなどが考えられる。調査は1998年9月を予定している。
研究課題 インターネット利用によるインター・アクティブ方式の方言認知地図の開発
代 表 者 ダニエル・ロング 大阪樟蔭女子大学・学芸学部・助教授(社会言語学)
種 別 文部省科学研究費補助金重点領域研究
年 次 1997年度
課題番号 09204232
交付金額 1,200,000円
研究概要
「方言認知地図」とは、方言分布に対する一般話者の言語意識を示した地図である。私は、これまで「方言認知地図」に関する様々な研究を行い、資料を収集してきた。そこで、多くの研究者にこの方言認知地図のデータを利用してもらうため、これをインターネット上で公開し、しかも、その地図を表示するための条件を利用者が選択できるようにすることを考えた。「方言認知地図」の集計用プログラムはすでに開発されており、このプログラムに基づいて、HTML形式のユーザーインターフェスを作成し、これが大阪樟蔭女子大学日本語研究センターのホームページに設置されている。
これまでは、「方言認知地図」の研究例として、2つのインフォーマント集団による「関西弁」の領域比較、「標準語」の認知領域、近畿地方の中の細分化などの分析がある。さらに、最も「感じのいいことば」と意識されている領域を地図上で表す方法、インフォーマントの地元方言の認知領域からそのアイデンティティを追究する方法、実際の方言境界線と方言認知地図との相違の要因を探る方法、そして2枚の地図の統計学的検定を行い、その結果を地図上に表示する方法などを模索した。今回、PDQを使い,ソウルの中央大学校の任栄哲(イムヨンチョル)副教授と共同で韓国語の方言の認知領域に関する研究を行っており、その成果の一部をインターネットで公開している。