口臭とカンジダの関係
及び、
抗真菌剤を連用することの問題



「舌が白い」ことを主訴として大学病院を受診し、カンジダ症の疑いがあると言われたが、2週間後の病理検査結果で否定された、というケースでの、抗カンジダ剤に関する質問に対しての回答より。
2000/8/4

口腔内カンジダ症は、視診だけでも判断がつき、検査結果が出るまでに、治療を開始することがあります。
しかし検査で、否定されると直ちに打ち切ります。

最近、一般開業医で口臭治療に抗カンジダ薬を連用して、問題になるケースが続出しています。
少しここでまとめてみます。
カンジダという真菌は、通常消化器系に常在するカビの一種です。
したがって、口や腸管には誰でも存在しています。
また、女性では膣にも常在しています。このカビ自体は問題がありません。
もっとも口腔内病変として、まれにですが、免疫力が落ちたり、老化や成人病治療における菌交代症として口腔内カンジダ症という病変はあります。
また、乳幼児の鷲口瘡という病気も産道で感染を受けた結果です

口腔内では健康な人の口の中にも常に存在し、他の細菌とバランスをとって生息しています。
ただ、なんでもないときに、このバランスを人為的に狂わせると、とんでもないことになります。

私は、もともと腸管感染症について、厚生省および大阪大学微生物病研究所で長い間、消化器における微生物の感染の仕組みについて研究してきました。
また獣医学では霊長類間の人畜共通感染症について研究していました。
その後、歯科に入ってきたので、ほとんどの歯科の問題は、歯を抜くことではなく感染防御によって、歯をいかにして残すかというコンセプトで取り組んでいます。また、ホームページでもそれを訴えてきました。

たまたまですが、歯科の臨床で(民間で)、歯周病にカンジダが関与している・・あるいは、カンジダを除去すると歯周病は完治するというようなことがマスコミで取り上げられ、にわかに、それまで細菌学的素養のない開業医が、基礎的裏づけのないままに、一気に抗カンジダ薬による歯周治療とか、さらには、抗カンジダ薬で口臭が絶滅すると言うような治療をする先生が増えてきました。

一時、抗カンジダ薬が開業医によって買い占められ、品薄になった時期もあり、苦笑しました。業者が高値で売りつけにきたからですが・・
私は、そんなブームになるはるか前から、必要な場合には、内服薬も塗り薬も、シロップも使っていたからです。なぜ、ブームになったのかびっくりしました。

もっとも、確実な根拠と細菌学的根拠に裏打ちされた先生が取り組む場合は問題がないと思うのですが、受け売りで、なんでもかんでも、万能薬のように抗カンジダ薬を使うことは専門的立場からすると、とても危険なことです。
大体、これひとつで口臭が解決するというような安直なものはありません。

理由は、そもそも歯周病や、虫歯は細菌感染ですから、細菌感染症は同時に真菌感染症を意識した治療がいつも必要であることは当然なのです。この考えは全身的なことを常に考える習慣のある医科や獣医科では常識です。特に、口を含む消化器を考える場合は慎重に対応しなければいけません。
いかなる感染症においても、細菌の影には常に真菌があるといっても過言ではありません。

したがって、当然ですが、歯石に真菌がいるのも、根尖病巣に真菌がいるのも、細菌学を知っている人間なら当然のことという認識があります。私はそのような認識でいました。
もっとも、まれにですが、口腔内にも真菌による病変があり、抗カンジダ薬を使う場合もあります。したがって、歯科でブームになるもっと以前から、私は必要に応じて慎重に使っていました。

そもそも、歯周菌によって、起こった歯周病はあくまでも原因菌を取れば完治するわけで、歯周病が完治すれば自然に真菌もいなくなります。
でも、真菌が単独で歯周病を起こしているわけではありません。
同様に、根尖病巣を作り出す菌は細菌であって、真菌ではありません。

だから、これらに抗真菌剤を使うことは本末転倒してしまうわけです。

ただ、研究する余地は十分あるわけで、大学などでの基礎的な研究成果を待ってからの人への応用がなされるべきであると考えています。

さて、もし、カンジダ症でないにもかかわらず、口臭でも歯周病でもなんでもかんでも不用意に抗カンジダ薬を使うと菌交代症が簡単に起きます。つまり、口腔内の適正な細菌バランスが容易に破壊されます。

その場合、とても危険をはらんでいます。
口腔内は、いろいろな種類の菌が適度のバランスをとりながら生息し、全体として機能を持っています。このバランスを崩すと、想像できない細菌が繁殖する恐れがあります。細菌と真菌は裏表なんです。
口臭は一時的によくなっても、今度は違う口臭が起こってきます。
歯周菌もある程度は必要で、歯肉溝への他の菌の侵入を阻んでいるわけですが、この機構が破壊すると予想できないことが起こる可能性があります。

逆に、日常的には、抗生物質を用いると、簡単にこの、口腔内の細菌バランスが崩れて、真菌による、化膿性真菌症を起こします。
逆もまた、おなじことです。口腔内では、その結果何が起こるのかが知られていないので、非常に危険です。
抗真菌剤を乱用すると菌交代によって、予測できない菌による感染症がかならず起こります。(抗生物質を使うと、カンジダ症になるのと、まったくおなじ原理です。さらに、予測できないことはとても不安です。)
したがって、こようなトラブルが起こっても、対抗手段があって、責任を持って治療してもらえるならいいですが、そうでない場合は、打つ手がなくなります。


最近、ほんだ歯科に、口臭治療に長期にわたって、抗真菌剤によるうがいをおこなって、余計にひどくなったという患者が急増しています。
多くは、オレンジ色の内服用シロップを、うがい薬にしているようで、このシロップは使用方法としては、うがいは想定されていないのです。
つまり間違った使用法といわれても仕方がないわけです。

では、どうして、まれに一時的に口臭に効くことがあるのかということですが・・
抗真菌剤はカンジダや真菌を殺しますが、同時に細菌にたいしてもある程度の殺菌作用を持っています。
したがって、抗真菌剤を用いますとしばらくすると、口腔内が殺菌され口臭がなくなります。
この殺菌の仕組みは、菌の膜を破壊することよってもたらされるのですが、同時に連用しているうちに、口腔内粘膜とりわけ、舌表面に細胞障害を起こしているのではないかと思います。副作用です。
そのために、いったん口臭はおさまるものの、しばらくして、障害を受けた舌表面は過敏になり細菌が定着するようになります。
そのような状態で、舌苔除去を行うとさらにひどくなっていきます。

実際に、口臭患者さんで抗真菌剤が有効なケースは、500症例くらいのうち、数例でした。


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