【概要】
安藝国広島城主であった浅野家の家史。全466巻、893冊。
初代長政から14代長勲に至る歴代藩主ごとの実録の形式をとる。広島藩に於ける修史事業は7代吉長の時に史伝の編纂が企てられており「済美録」もこの修史事業の一環である。本史料は「太祖公済美録」(長政の伝記)凡例によると、文化年間に長政から6代綱長までの事績を編纂し、50余巻が成り、「御代記」と称したという。7代吉長の「體國公済美録」に「吉長公御代記」の名称が見えるから、このような名称であったであろう。しかし、この50余巻には不備な点があった為、文政3年(1820)春、藩の再命により史局が設置され、「御代記拾遺」の編集が行われ、増補改訂が加えられた。文化5年に松岡三郎左衛門(書翰方列勘定所詰)に旧記調方を兼務させ、文化7年(1810)5月、頼惟柔(奥詰次席)に旧記調方を命ずるなど編纂は大いに進んだ。現存の「済美録」では6代綱長の「顕妙公済美録」までで154巻192冊を数えるから、大規模な再編修作業であったことがわかる。そして文政元年(1818)正月、長政より綱長までの御代記が完成した。ついで吉長の世紀の編纂にかかり、中島六大夫(用達所詰)・筒井極人(用達所詰)が主に事務を管掌したほか、松岡三郎左衛門・酒井荘介(歩行筆頭)・梶山清兵衛(歩行組同)等が実務に当たった。文政3年(1820)正月、「吉長公御代記」が成り、ついで宗恒の世紀も完成した。そして各代の御代記の総称として『左伝』の「世済其美、不隕其名」(子孫が父祖の業を受け継ぎ美徳を成し遂げることの意)から「済美録」と命名された。ここに広島藩の修史事業は一段落をつけた。
以後、歴代の藩主の世紀も継続して編纂されたが、実際には9代重晟以降の世紀編纂は明治になってから浅野家泉邸(現広島市上幟町)に設けられた浅野家家史編修所において行われ、実に全体の完成を見るのは明治末期であった。14代長勲までで記載年代は昭和6年(1931)にまで及んでいる。本文の記述は編年体で、主要項目ごとに詳細な綱文をたて、そのあとに典拠となる文書・記録を掲げる。重要文書は原文書を縮写しており、現存していない史料もあって貴重である。更に欄外にも註記を加えるなど信頼性は高く、広島藩主の根本史料といえる。ただし多くは幕府との関係を中心に記載されているので、藩政を知るには少し物足りない。また長勲の明治以後の記事は、大名華族の史料として貴重である。 本史料の構成は「済美録」(広島藩主歴代世紀)、「赤穂分家済美録」(分家赤穂藩浅野氏の世紀)、「三次分家済美録」(21巻22冊・分家三次藩浅野氏の世紀)となっている。分家の「済美録」は明治頃に編纂、完成されたと思われ、また本家のものと区別するためか「御伝記」の表題が用いられている。本家のみならず、分家の世紀をも編纂し、且つ記載年代が昭和に及んでいるので、膨大となるのは当然であり、旧大名家が編纂した家史では我が国最大の規模を誇るであろう。
「済美録」全体の刊本はなく、一部が県史等の自治体史に所収されているのみである。また「済美録」原本は閲覧不可であるが、本家の世紀は東京大学史料編纂所に写真帳として架蔵されており、閲覧できる。
当主 | 済美録の名称 | 員数 |
---|---|---|
− | 済美録頭書(凡例・目録) | 16冊 |
初代 長政(ながまさ) | 太祖公(たいそこう)済美録 | 10巻12冊 |
2代 幸長(よしなが) | 清光公(せいこうこう)済美録 | 12巻12冊 |
3代 長晟(ながあきら) | 自得公(じとくこう)済美録 | 23巻32冊 |
4代 光晟(みつあきら) | 玄徳公(げんとくこう)済美録 | 61巻71冊 |
5代 綱晟(つなあきら) | 天心公(てんしんこう)済美録 | 11巻12冊 |
6代 綱長(つななが) | 顕妙公(けんみょうこう)済美録 | 37巻53冊 |
7代 吉長(よしなが) | 體国公(たいこくこう)済美録(題箋、吉長公御代記) | 47巻50冊 |
8代 宗恒(むねつね) | 鶴皐公(かくそうこう)済美録 | 35巻42冊 |
9代 重晟(しげあきら) | 恭昭公(きょうしょうこう)済美録 | 56巻86冊 |
10代 斉賢(なりかた) | 天祐公(てんゆうこう)済美録 | 46巻109冊 |
11代 斉粛(なりたか) | 温徳公(おんとくこう)済美録 | 41巻84冊 |
12代 慶熾(よしてる) | 大光公(だいこうこう)済美録 | 11巻16冊 |
13代 長訓(ながみち) | 長訓公(ながみちこう)済美録 | 21巻39冊 |
14代 長勲(ながこと) | 長勲公(ながことこう)済美録 | 55巻207冊 |
同 上 | 長勲公(ながことこう)済美録附録 | 32冊 |
【所蔵者】
個人蔵、広島市立中央図書館寄託。
[閲覧]不可、ただし本家のみの写真帳は東京大学史料編纂所にて閲覧可(事前に閲覧申請の要有り)
【刊本】
本家→『広島県史』近世資料編U(一部・昭和51年、広島県)ほか。
赤穂分家→赤穂市史編さん室編『赤穂市史』5巻(一部・昭和57年、赤穂市ほか。
三次分家→広島県双三郡・三次市史料総覧編集委員会編『三次分家済美録』(ほぼ全文・昭和55年、広島県双三郡・三次市史料総覧刊行会)。
【参考文献】広島市立中央図書館編『浅野家寄託史料目録』(昭和50年、同館発行)、村井益男「済美録」(『国史大辞典』所収)、土井作治「浅野家歴代済美録」(平凡社『日本史大事典』所収)
(012 2000/09/09)
(2000/10/31)
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