sfの猫日記:96年11月
私が食事を取っていると、タマが魚を狙ってやってくる。やせ細って元気が
なくても、いや元気がないからこそなのか、タマには食べることへの執念が見
受けられる。
六畳一間にオス猫二匹、メス猫二匹というのは去勢されていてもストレスが
たまるのだろうか、トムとトミーがときどき対立して威嚇しあい、喧嘩になっ
ている。おおむね仕掛けるのはトムのようである。
つかみ合いになっているの食みかけたことはないのだが、トムの腹に引っ掻
き傷があったことからみて、それなりに喧嘩になっているようである。
今日は良く猫を見る日だったようなきがする。
出かけしなには、通りすがりの長屋で猫を見かける。ここは餌をあげる人が
複数いるので、いつ見ても不思議は無いんですが……。
さらに。阪大の学祭にいったんですが、阪大までの長い上り坂では、塀の向
こうで猫が鳴いていました。なんかすごく切迫したような声でしたけど、帰り
にも鳴いていたんですよね。
さらに、帰ろうとしたときのこと。阪大の池の芦原には小屋が作ってあり、
屋根の上で猫が気持ちよさそうに寝ていた。この小屋、もしかして猫用なのか
なと思ってしまいました。
最後に、自宅の近くのJR下田駅では、猫が溝に隠れて脅えていました。駅員
さんによれば、入り込んだはいいものの、駅だけに人の出入りが激しくて恐く
てでられなくなっているんだそうです。子猫のようなので、風邪を引かなけれ
ばいいんですが……。
8キロ以上の体重を持つトミーが背中に飛び乗ってきた。さすがに突然だと
その十倍の体重の私でもよろけますね。
とっさのことなので背中の角度は猫が乗りやすいように放っていませんから、
必然的に滑り落ちそうになり、トミーはしがみついて爪をたてました。安定し
てからも、さらに爪をとぐように背中をもみしだき、甘えて顔を首にこすりつ
けてきます。……痛いってば。
そのあとでは、ごろんと転がるように甘えようとして落ちそうになる。こう
なるとまた爪をたててしがみつくわけで、とても痛いのでした。
二階のリキの部屋で、匂いが変だとおもうと座布団に大便をしてありました。
調べてみると、一回の皮のソファーの裏にも、なみなみと小便が溜まってい
ました。おそらくはター坊だと思われます。
たくさん猫が居るので便所が汚れやすいのもあるんでしょうけど、布があっ
たらそのうえでトイレ……って癖になっているようなのは困りものです。
猫日記が1ヶ月ほど中断していました。一度中断してしまうと再開するのが
おっくうになってしまいますね。……内容が暗いってのもあったかもしれませ
んが。
今回のは飼い猫が死んだことのない人は読まないほうが良いかも知れません。
内容は当日に書いたものに、少しだけ付け加えただけです。当日の感情が文体
にあらわれています。
タマの調子が悪くなった。前日まではがつがつと食べていたのに、食べない。
しかも足元がおぼつかなく、ふらふらと歩いている。後ろ足に力が入っていな
いようである。
母によれば、小便も透明な感じで変だったらしい。タマが寝ていた椅子の上
に便がこびりついていたのも、便の切れが悪くなったせいだろう。呼吸音も変
で、甘えているときに似たごろごろとした音がしていたらしい。呼吸は今は大
丈夫なようだが。
さらに……母が出かける頃に気がついたのだが、大便を椅子の下でしてあっ
た。匂いが残っているのは椅子についていたせいだろうと思ったのだが、便そ
のものも近くにあったわけだ。もはや便所まで堪えることができなくなってい
るのだろう。
母は、朝方にタマを連れて外を散歩させてやったらしい。外にでたがるもの
の、他の猫に噛まれたりすると大変だし、筋力が落ちているので怪我しやすい
だろうから、いっしょに見ているときだけ外に出してもよかろうと判断したの
だそうだ。家の周りを一回りして、ジャリの上で座ってみたり、池の水を飲ん
だりして、玄関先の木陰でしばらく座っていたそうだ。
出たそうにガラス越しに外を眺めるタマに近寄り、しばらく頬をよせて撫で
てやった。ごつごつとやせ細り、頭以外は撫でるのもかわいそうなくらいであっ
た。
朝飯を食べ、台所を片付けて二階に上がろうとしたときのこと。居間の窓が、
開いている。窓を開けて外に出ていたのだ。どうやら鍵がかかっていなかった
らしい。母のうっかりミスであろう。こじ開けたのはタマだろう。他の猫はやっ
たことがないし。あれだけ力が衰えていても、根性であけたらしい。
しかしふらついているのでちょっとしたことで怪我をしたり噛まれたりしか
ねない。さっさと探して入れてやらないといけない。
とりあえず出口付近にいた猫をつかまえる。ネネは素直に捕まった。おっと
りしていて甘えん坊なせいだろう。ター坊は私を恐がって家に逃げ込もうとし
ていたので、ガラス戸をあけてやると素直に飛び込んでくれた。リリーには多
少てこずったが、草を食べているところにそっと近寄って、手で押さえてやる
とつかまえることができた。タマ以外は外での生活に慣れていないので、出入
り口付近でたむろしているだけであったのが、捕まえるのに幸いしたといえる。
とりあえずタマ以外はすべて家に戻したことを確認すると、タマがどこにい
るか探しはじめた。南の庭には見当たらない。
玄関側に回って探す。タマが好んで外の見張りをしていた門柱の上にもいな
い。もっとも、あんな状態では門柱に飛びあがることができるかどうか……。
さらに、池の近くに居るのではないかと見てみる。すぐ近くには居なかったが、
池の向こう――道路側の隅っこの木の陰にいた。マー坊、ター坊、ナナが捨て
られて鳴いていた場所。時々タマが母を出迎えるために待っていた場所。元気
だった頃によく居た場所にいるだけに、いまのタマは妙に小さく見えた。
(このあたりを書いたときにはタマは元気でした。でも、これだけ詳細に書い
ていたということは予感があったのかもしれない)
昼飯。母は月曜日から木曜日まで実家に帰る予定であった。もう父(私にとっ
ては祖父)も80歳を越え、スポーツで鍛えあげて長年保持してきた筋肉もやせ、
気力も衰えているとのことで、元気づけるためにも帰っておきたかったのだ。
しかしタマの容態が悪いようならば、帰省をあきらめて四日間をタマの看病
にあてよう、そう言っていた。
タマはさっき買ってきたモンプチを食べたらしい。もはや流動食に近いもの
でないと食べられないのではないか、と母は話した。それでも元気に食べたこ
とで安心した。
五時になって、タマにそろそろ缶詰をあげなきゃいけないなと思いつつ、下
に降りた。餌をくれと寄ってくるのを期待したのだが、見当たらない。
不安を抱きつつ台所に入ると、足元でタマが横たわっていた。
食べ物を吐いている。最初の一瞬は寝ているのかと思ったのだが、すぐに気
がついた。死んでいる。触ってみるとまだ少し温かいが、体が硬直しはじめて
いる。生きていたときよりも撫でやすく感じるのは皮肉なことだった。
急いで職場の母に電話する。仕事中だが、今すぐ帰宅するとのことだった。
きれいにしておいてやりたいとは思ったものの、とりあえず現場状況はそのま
ま見せることにした。
母が帰りつくまでずっとタマを見つめていた。
嘔吐物には紡錘形の塊が入っていた。何だか分からないが、焼き魚の破片で
も食べたのだろうかとも思った。しかし、そんなものは台所にもないはずであ
る。あとで確認してみると、吐瀉物の中にあった固形物(のようなもの)は、巨
大な毛玉であった。直径5mm、長さは3cmくらいもあった。おそらくは毛玉を吐
こうとして胃の内容物ごと吐き、体力が衰えていたために気管に嘔吐物をつま
らせたのだろう。小便も漏らしていた。排泄口には小さな尿の玉が残っている。
(ここまで書いて力尽き、以下は後日(19日に)書いた)
母が帰ってきて惨状を見せてから、吐いたものなどを掃除して、タマの体に
ついていたものもぬぐってやった。そのあと段ボール箱を台にしてに白い布を
しいて寝台にし、タマを乗せてやる。そのあと写真をとった。最初はタマの死
んだ場所――台所の居間との境、米びつと火のついていないガスストーブでは
さまれた場所――で撮り、台所の明るいテーブルでまた数枚撮った。
胃液かなにかが逆流してきて、口から流れ出しているのに気がついたので、
顔の下にティッシュをしいた。
そのあとで段ボール箱にタマを乗せて家中と庭を回った。他の猫に匂いをか
がせて、母代わりであったタマがもう死んでしまったことを知らせて、タマに
自宅を見せてやりたかったのだ。
私の部屋にも入れた。ラヤはしばらく匂いをかいでいたが、突然飛びのいて
窓際でたたずんでいた。そのあと窓からタマに外を見せてやった。
(以下は部屋を見せた直後に書いた)
ラヤが私の部屋あずかりとなるまでは、タマは私といっしょに寝ていた。こ
の窓から屋根にでて、玄関の屋根から梅の木、門柱へと飛んで外にでていたも
のだ。交通事故の増大で外には基本的には出さなくなったのだが、それ以後タ
マは丸々と太り出した。やはり運動量が足りないせいか、ストレスのせいか。
そんなタマが痩せだしたのが最近のことだった。最初は健康的になったのかと
喜んだりもしたのだが、実際には病に蝕まれていただけだったわけだ。
体が衰えていき、死をまじかに見つつも生き続け、おのれをまっとうしよう
としたタマ。どの猫にもやさしく接して舐めてやる、10年近くにわたって我が
家の猫たちにとって母代わりであったタマ。
もっと日記で色々と描写してやりたかった。さっさとデジタルカメラを購入
して写真を撮りまくるべきだった。こうして家を回ってみても、タマの記憶が
どんどん薄れているのを痛感していた。
後悔しても遅いけど、日記の重要性というものが良く分かる。これからは日
記をきっちりとつけたいものである。忘れないためにも、記録し続けよう。そ
して毎日新たな成果を獲得し続けるようにしよう。
(こんなことを書いていたわりに、葬式後はショックがひどくて日記をまとめ
られなかったし、結局は日記もサボりぎみであった。我ながら情けないことで
ある。11月19日記す)
96/11/10:
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線香をやる。
本来死臭の匂い消しでもあるというが、確かに。
愛知県で自活をしている妹が飛んでかえってきて、タマの葬式に参加する。
12時に葬儀所の車が
手間取ったが
荼毘に付す。
最後に撫でてやると、ひんやりとしていた。
骨と皮ばかりになっていたためか、骨になっても小さくなった感じはしなかった。
96/11/11:
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朝起きて台所に入っても、魚を焼いて食べていてもタマがまつわりついてこ
ないのが悲しい。
扉をあける猫がいないのでつっかい棒が不要なのも、悲しい。
なぜか階段にある本棚の上でナナやター坊が寝ているのを不審におもってい
たんですが、ようやっと理由に気がつきました。
白熱電球が近くにあるので、その熱で温かいんですよね。
時間がかかる
完全な戸締まり。
ミイが外に出ないようにと
入ってきたところを見計らって
帰ってみると暴れたらしく、箪笥の上から服やなんやを落としていた。
マー坊がリキの乳を吸ったりしていると、
逆にリキがマー坊の乳を吸いだした。
96/11/18:
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ラヤが例によってマリーにうなり、飛び掛かろうとした。
網のおかげで
止めていたら、私に対しても吠えたてるようになった。
私が手を出すと、引き裂くように手で引っ掻いてくる。
その後、またも鳴いていたので引き離す。
再度見に行こうとした等やを止めようとすると、右の手首をがぶりとやられた。
本気も本気、凄く痛い。手がしびれた。
あとで見ると三角の彫刻刀でえぐったような傷になっている。
血管の上を削っているので、皮膚の薄めの人などだと生命の危険もあったものと
思われる。猫に噛み殺された例は少ないとはいえ無くもないんで、不思議ではない
けど。
しかしまあ、これだけ本気で噛まれても筋肉に力を入れていると、
表皮に溝が入る程度であまり深い傷にはならないらしい。
風呂に入ると痛そうだが。
とっさに左手で首を押さえて倒しこみ、引き離す。
さすがに人間にはかなわない。しばらく押さえこんで
「オレのほうがえらいんだ、わかったか」をやる。
犬なら効果覿面なのだが、猫だとすねるだけみたいだ。
見えなくすれば
96/11/19
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風呂からあがってキーボードを叩いていると、ラヤが手に興味を持った。
石鹸の匂いがここちよいのか、手を指のまたまで舐めるは、手に顔を擦り付けた
うえに頭を乗せてひっくり返るわ、つかんで食べるは、
咥え込んでしゃぶろうとするは、大変なありさまでした。
まるでマタタビをやったときのような状態。
なんでこうなったんだろうか。
96/11/20
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手首がこすれて痛い。
22
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帰宅するとマリーが出迎えてくれた。
96/12/06:逃げる
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ター坊ってば、いったいなぜあんなに私を恐がるのであろうか。
96/12/07-1:
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ヒーターから風がでてくる音を聞いて、ラヤが恐がっているのか鳴いている。
アーオン、アーオンと。
96/12/07-2:
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刺し身を切りだした残りの血合いを猫にあげた。
トムが良く食べたのだが、トミーは一つくらい食べるとあとは飽きたのか腹
が減っていないのか、トムを舐めていた。
ロミは舐めただけでやめたし、レミに至っては見向きもしなかった。
リキは喜んで食べた。ラヤもがっついて、皿を丁寧に舐めていた。
ヒーターの音にはあっというまに慣れてしまったようである。
あまつさえ、風のあたるところでうずくまってチュパチュパと
吸いはじめる始末。
96/12/10:
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タッパーがこけていた。
タッパーに入れていた猫メンテナンスがこぼれていた。
入れすぎで蓋の締まりが良くなかったのだろう。
リキが戸を外した。ガラス障子の戸を外したのである。体当たりして斜め上
に擦りあげるようにして持ち上げたのであろうが、良くやったものである。けっ
こう重いというのに。障害用に立てかけてあった戸も倒していたし……。
同日。トラが来たので、餌をやる。
ター坊がガラス越しにこてんこてんと甘えたそぶりをしている。ナナも寄っ
てきた。まだ子猫だから警戒していないのだろうか。トラのほうは、めったに
うならないはずなのに、ター坊に向かって威嚇している。謎である。
ラヤの背中をかいてやっていたら、いつもと違う表情をしていた。
なんか遠くを見るようなかんじで、首を伸ばしている。そのうち口を半開き
にしてすぼめチュパチュパと口を動かしはじめた。どうも母親の乳を吸うしぐ
さらしい。空中でやっているのははじめてみた。
23日にも再現できたので、一時的なものではないようである。背中を指でか
いてやるしぐさが、母親になめてもらっているさまを思い起こさせたようなの
だが……。
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