ハートウェーブは、ハートランドがお届けする読み物メールマガジンです %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%            ハ ー ト ウ ェ ー ブ %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% ハニー号 99.06.07 %%%% ◎ハートウェーブ・ハニー号では、毎回、テーマに沿ったささやきをお贈りし  てゆきます。今日のテーマは、『愛しい(リトライ)』です。  どうぞ、ささやかな贈り物をお楽しみください。 φ本日のメニューφ  1.Dear Moon Yurie.H  2.慰撫のかわりに Momoyo.K  3.ごめんなさい ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ @Dear Moon@  空に浮かんだ月は、とろけそうな蜂蜜色をした見事な満月だった。その温か な月の光に思わず見とれていたら、不意にルルル、と電話が鳴った。 「もしもし?」  少し雑音の混じった彼女の声が、受話器の向こうからこぼれた。 「ねぇ、今、月が見える?」  唐突に尋ねる口調の中に、僕はなぜだか確信みたいなものを感じた。そう、 彼女はきっと、うっとりするほど綺麗な満月を僕が眺めていたことを、わかっ ていたに違いない。 「ああ、見えるよ。そっちはどう?」 「うん……見えるけど、ちょっと雲がかかってる。朧月夜っていうんだっけ?」 「そうか」 「さっきもね、スコールが降ったんだよ」  僕は彼女の声を聞きながら、月が良く見えるベランダへ戻った。  僕に見えるのは、綺麗に澄み渡った空に浮かんだ満月なのに。それだけで、 僕は彼女と僕を隔てる距離のあまりの大きさに、切なくなった。彼女が今いる はるか南の島は、同じ国ではあっても、こことは全く違う世界なのだ。 「でも、良かった」  しばらくの沈黙の後、彼女はまた、唐突にそう言った。 「何が?」 「だって、あなたと同じ月をきっと私も見ているんだろうと思ったから。だか ら、なんだか我慢できなくて、電話しちゃったの」  少し照れたような口調。きっと彼女は、はにかんだように微笑んでいるに違 いない。  僕は、こぼれそうなため息を押し殺して、目を閉じる。彼女をぎゅっと抱き 締めたいのに、と思いながら。 Yurie. H @慰撫のかわりに@  泣いているに違いない、と青年は思った。 帰ることのない母親を待って、植え込みの陰で雨にうたれていた彼を拾ったの は、今日とおなじ、雨の日だった。  母親はもう、帰らない。  無理心中を謀って――  五年前、外出先から戻った青年は、植え込みの陰で倒れている子供を見つけ た。いったい何時間そこにいたのか、くちびるは青ざめ震えも止まらず、意識 もほとんどなかった。昏睡状態が続くなか、呼び寄せるべき家族を求めて彼の 身元を照会した青年は、心中事件に突きあたった。  その日から、彼は舘の住人になった。  彼を見つけて死の淵から掬いあげたこの青年は、しかし、保護者になること は許されなかった。彼の保護者に認定されたのは青年の友人で、ときおり、彼 の様子を訊ねるために呼び出している。 「お決まりでしたら、承ります」  やわらかな声に、青年は視線を留めた先をかるく示して注文する。  雨の日には、彼は窓の外を見つめたまま口をきかない、と聞いている。  まだ、九才。雨の日には、胸を焦がして泣いているに違いない。涙を誰にも  見られないように、精一杯の虚勢を、噛みしめたくちびるに滲ませながら。  そんな彼に、瞬きほどの間でも、胸の痛みを忘れて欲しくて評判のいいデザ ートを買う。友人を通して、彼に贈る。雨の続く季節には、毎週のように、贈 り続ける。  禁じられて、抱きしめることはできないから。  せめて一瞬、詰めた息をぬけるように、と。 Momoyo. K @ごめんなさい@  ごめんなさい、今回こんなに遅いのは、ぜんぶぜんぶ桃世のせいです。いや あ、むじゅかしい……誰だよ、『愛しい』ってテーマ決めたのっ! ――あた しだ。くぅぅ。今回、気合い入れてるんですが、足りないですね。  なんだか、『せつない』みたいになっちゃったし。このテーマは、とりあえ ず、納得いくまで秘かにチャレンジしていきたいと思います。  満足できるものができあがった時に、お目にかけるつもりでいます。が、道 は、果てしなく遠いですね。くすん。  というわけで、今回は大変おそくなっちゃいまして、申しわけありませんで した。ゆ、許して? Momoyo. K ″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″″ ☆こんにちは、花山ゆりえです。  ハートウェーブ・ハニー号、お楽しみいただけましたでしょうか。相変わら ずチャレンジを続ける私達の果てしなく厳しい道のりは遠く、桃ちゃんに限ら ず、実は花山だって気分は玉砕です……が、泣いても足りないものが埋まるわ けじゃなし、ひたすら頑張るのみです。そういう中で、みなさまに少しでもた くさん楽しんでいただけたら、と思っておりますので、これからもどうぞ、よ ろしくお願いいたします。  それではまた、7のつく日にお会いしましょう。                 ☆6月17日は花山ゆりえの花号、27日は上代桃世の桃号を発行の予定です。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆ 発  行  ハートランド ☆本日の担当者  花山ゆりえ(yn6y-iruc@asahi-net.or.jp) ☆このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して  発行しています。( http://www.mag2.com/ ) ☆バックナンバーはhttp://www.age.ne.jp/x/sf/NOVEL/HW/ でご覧いただけま  す。掲示板もありますので、ふるってご参加ください。よろしくね。 メールでのおとりとせもできますので、お気軽にどうぞ。 ☆みなさまからのご感想、リクエストなどを心から、お待ちしています♪ ☆お 願 い  掲載された内容は許可なく、転載しないでくださいね。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞