『メタモルフォセス館 ── 少年奴隷 ── 』 試し読み
ノックもなく、扉が開く。またマクシミリアンかと思ったが、姿を見せた黒髪の男に、俺はギクリと身を強張らせた。
シンの姿を見るなり、自分が手錠と足枷だけをつけた素裸なのが気になって、俺は慌ててベッドに駆け寄った。
ベッドには、大きな枕が二つ置かれているだけで、他にはなにもない。それでも真っ白なシーツがきちんと敷かれているから、それを引っ張って剥がそうとする。
「なにをしている?」
「く、来るなよっ」
言いながらも、俺はベッドの陰に隠れようとしていた。そんな俺を一瞥し、シンはベッドの反対側に置かれていた椅子に腰を下ろす。
「ずいぶんマシになったな。さすがはマックスだ」
「う、うるせぇ……」
一日暴れて髪は乱れたはずなのに、前の俺よりはマシだということか。昼間鏡を見ていただけに、悔しいことだが、シンの言葉は嘘やお世辞には聞こえない。
「慌てるな。まずは講義だ」
「講義?」
そう言ったシンは、かけていたサングラスを少しずらして、その隙間から俺を見た。濃い青色の瞳に、心臓が鷲づかみにされたみたいになる。息まで苦しくなってきて、ベッドの陰にしゃがみ込んだまま、俺は身を固くする。
「そうだ。お前にはまず、俺が扱う奴隷がどういうものか、教える必要があるからな。大人しく聞いていろ」
なるほど。授業のお時間というわけか。
そんなモン、受けたくはない。だけど聞いてるだけならば、どうってことはない。少なくとも、抱かれたりするよりは一億倍もましだ。
相変わらずベッドの陰に隠れたままでも、俺に動く気がないと思ったか。それとも、そんなことはどうでもいいのか。
奴は椅子の背もたれに深く座り直すと、静かな声で語り始めた。
「いいか。まず奴隷とは、主人に奉仕する者だ。主人の命令には絶対服従。それは主人の財産であり、人と家畜の中間にある存在だ」
聞いた途端に顔が歪んで、けっと小さく呟いていた。
人と家畜の中間。昼間目が覚めてから、食事のたびに俺が思っていたことは、半分当たってたってわけだ。
「そういうものだから、奴隷の生殺与奪権は、当然主人にある。どのようなむごい扱いを受けようが、傷つけられたり殺されるようなことがあったとしても、文句を言う権利はない。他人に譲渡される場合も、同様だ。奴隷の扱いについては、全てが主人の自由であり、奴隷側には一切ままならない。ここまでは、理解したな」
俺は、なにも答えなかった。返事なんかできるはずがない。
聞いてるだけで、虫酸が走る。しかもその奴隷に、俺はなろうとしているのか? 冗談じゃねぇ。そんなもの、絶対になるものか。
「返事はどうした?」
わずかに凄みを増した声が、俺にもう一度聞いてくる。サングラスの濃いガラス越しにも、俺に向けられた眼差しが、焼けつくように感じられる。
「……わかったけどよ……」
かろうじて、それだけが言えた。
わかったけど、でもいやだ。そんなひどすぎるじゃねぇか。
なにか言い返したかったけど、上手く言葉が出てこない。
ならいい、とだけ言って、シンは講義を再開した。
「家畜には、毛皮用、食肉用、労働用、愛玩用と、様々な用途がある。それと同様に、奴隷にも種類がある。俺が飼育するのは、愛玩用の奴隷。性奴隷だ。これは、昨日話したな」
「愛玩用ね……」
「なんだ?」
「それじゃあ、愛玩用じゃない……えっと、毛皮用や食肉用。労働用の奴隷もいるってのか?」
そう聞いたのは、講義を真面目に受けているからじゃない。俺はただ、冷やかして、シンを少しでもいやな気分にさせてやりたかったんだ。
だが奴は、眉ひとつ動かさなかった。
「そのとおりだ。だが、労働用の者は奴隷と言ってもいいが、皮や食肉用の者は、既に奴隷ではないな。家畜だ」
「いるのかよ……」
思わずゾッとした。それを話したシンが、平然とした様子だから、なおさらだ。
※ 本作品の内容は、全てフィクションです。
■ 実在の人物、団体、場所と同じ名称のものがあったとしても、一切関係ありません。
■ また、本作品は犯罪を助長する意図のものではありません。