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●9月26日(日)
北京劇場にて、舞台見学会が開かれた。筆者は芝居に詳しいわけではないが、とにかくLIVEが好きで、今まで小劇場からブロードウェイまで、数々の舞台を観てきた。だから劇団四季の舞台裏を拝見する機会を得て、ワクワクドキドキ、心拍数が急上昇してしまった。が、これは遊びではない。れっきとした仕事だ。興奮してはいけない。そこで、「つまんねーの。たいしたことないじゃん」と冷静を装って見学会に立ち会うことにした。
劇場では、関係者以外の立ち入りを禁止しているため、簡単には中に入れない。筆者をはじめ見学に訪れた方々は、舞台スタッフと同じ証明書を胸につけ、ようやく劇場内へ。今日は各場面ごとの照明チェックの日とか。舞台上では舞台転換のチェック、観客席に設けられた照明制御のブースでは光量の調整に余念がない。舞台の上には、日本で使った舞台セットがそのまま配置されていた。が、私が目にしたのは二場面分程度にすぎない。舞台は目まぐるしく展開するので、すべての舞台を見るのは、やはり開幕を待たなくてはならない。
普段は私たちの目に触れることがない作業が淡々と進められた劇場は、何だか物足りなさを感じさせたが、観客と役者がいないあの静けさは、どこかで味わった緊張感があった。そうそう、開演ブザーが鳴ってからの数十秒の沈黙に似ていた。観客がかたずを飲んで開演を待つあの雰囲気。そんなワクワクする沈黙が、今日の劇場にもあった。劇団四季では、通常、準備風景を公開しない。今回は「運が良かった」と言えそう。
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●10月3日(日)
中央民族楽団にて、稽古場を拝見。本番を半月後に控え、振り付けの総チェックとのことで、各場面場面で区切って細かな点まで修正していく。役者の一つひとつの動きが機敏でかっこいい! でも、私が「決まった!」と思った瞬間、演出から「はいストップ、ん〜」と不満の声。「え? どう見ても完璧だよ」と思いつつ、「今の状態ではステップを踏んでいるだけなんだよね」とか、「回転のスピードが遅い。あごの位置が違う。手の位置が低い。もっと体全体を使って」と、細かなチェックが入る。私が「今度こそOKでしょ」と思っても、まだまだ。「まだやるの? 早く次が見たい」と思った頃、「うん、うん」とうなずく演出。「やっと次か」とホッとすると、「最後の一回ね」の一言。どんな細かなミスも見逃さない。劇団四季のこのレッスンが、多くのファンを引きつけて離さないんだなあと実感。振り付けのチェックをしていた劇団四季の古澤さんは、「すべての動作に意味がある。全体の調和を意識しつつ、手の指先やつま先まで意識するように。衣装をつけているイメージも忘れずに」と役者に話しかけていた。
厳しいレッスンが続く中でも、役者の表情はとびきり明るい。真剣さの中に明るさがある。休み時間に彼らのミュージカルに対する考えを聞いてみた。
――ミュージカルの難しさは?
それは歌いながら踊り、踊りながら歌うこと。
――では、ミュージカルの楽しさは?
ん〜、それもやっぱり歌いながら踊り、踊りながら歌うことかな。
そう、みんなミュージカルが好きなんだ。余暇の生活を聞こうとしても、何も出てこない。出てくるのは、「劇団四季で受けたレッスンも、以前中国で受けてきたレッスンも内容は同じ。でも、四季の訓練では更なる細かさが要求される。劇団四季に出会ったことで、自分の水準が一段上がった気がする」「学べば学ぶほど、ミュージカルが面白くなる」というミュージカル関係の内容ばかり。彼らの生活は、ミュージカルを中心に回っているのではなく、ミュージカルの中にあるのかもしれない。
休み時間に気付いたことがある。役者の身長が意外に低いことだ。レッスン中は歌って踊って体全体を使って表現して……本当に大きく見えた。それなのに身長一七五センチの私より小さい方が多い。舞台に立つと大きく見える、プロの演技のすごさを改めて感じた。
※この日はカメラを準備できず、皆さんに様子を伝えられないのが残念。
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●10月4日(月)
昨日に引き続き稽古場にお邪魔。稽古場に着くなり、緊迫したレッスン風景に引きつけられてしまう。今日は、歌の総チェックとのこと。オーケストラ風に指揮者を囲み、歌の緩慢、強弱、連結等を再確認していた。残念なのは、昨日も今日も衣装はつけない。「素顔の役者さんに会えた」といえば聞こえはいいが、ちょっぴり寂しい。
とはいっても、力強い歌声は、私を十分楽しませてくれた。特に独唱から合唱へと流れていく段では鳥肌が立った。役者はただ座って歌っているいるだけなのに、昨日見たダイナミックな演技が目の前によみがえってくるような衝撃を受けた。役者の歌声は、魔法だ。
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★舞台裏見学後記
当たり前のことだが、ミュージカルを演じるには、歌手と俳優の両方の才能がなくてはなけない。その上で、人並み以上の努力が必要だ。私は、そんな超人的な人達の演技を数メートルという距離で見た。劇団四季のファンクラブ「四季の会」の会員を始め、多くの演劇ファンを敵に回したかもしれない。あ〜、怖い。
でも、「もし取材でなければ、もっとミーハーな気分で見学できたのに……」という気持ちが心のどこかにある。(失礼!)
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