中 国 人 俳 優 に よ る 中 国 語 ミ ュ ー ジ カ ル
ディズニー美女と野獣©Disney
かわら特派員
舞台裏日記
ライター 坪井信人/アシスタント 楊暁凌

かわら版編集部は、10月18日の通し稽古に招かれ、『美女と野獣』を観劇した。また、開幕当日は劇場の外で観客の興奮を肌で感じた。


●10月18日(月)

劇団四季・浅利代表語録
10月18日のミーティングにて
浅利代表は、演技の細部にはまだまだ不満そう。細かなチェックを入れて、十月二十二日の正式に開幕を待つ。
「今日の二幕は良くない。お客さんが一幕で反応しすぎたからだろう。俳優ってのは下品なところがあって、お客さんの反応がいいと、自分の演技を忘れてしまう。(下品なところを)抑えた人が良い俳優だよ」
「野獣は、字が読めないところでもっとおどおどしなきゃ。それで観客もわかる。あぁ、読めないんだなって」
「アンサンブル(中心人物を囲んで踊ったり歌ったりする舞台を盛り上げる役者さん達=編集部注)まで受けねらいだと良い芝居にはならないよ」
浅利代表の話に
真剣に聞き入る
「(このミュージカルが一番盛り上がるビー・アワー・ゲストでは=編集部注)人間が楽しんでいるという希望を表したい」
「今日のだと(美女より)野獣の方が踊りがうまいんだよ。リズムをずらして下手に見せなきゃ」
   今日は、一般公開に先駆け中国の公演の関係者、そのご家族、ご親戚、それに報道各社への公開の日。劇団四季の配慮で、かわら版特派員も劇場に招待された。手配された席は、なんと第一列。後ろを振り向くと人、人、人。前には舞台だけ。「俳優のご家族の方に申し訳ない」と心の隅で、そう、ほんの片隅で思いつつ、興奮しながら開演を待った。
プレ公演のようす
   開演間近、演劇やコンサートでおなじみの「携帯、ポケベルの電源はお切りください」のアナウンス。「さあ、始まるぞ」と心の準備をしたところ、「トゥルル……」と携帯の呼び出し音。「きっと電源を切らない人がいるだろうな」という予想を裏切らない展開。やっぱりここは中国だ。
   開演前にまず、劇団四季の浅利慶太代表が、俳優のご家族に向かって、「皆さんのお子さんたちは、(今回のミュージカルを指導した)日本人はうるさくてしょうがないよ、とおっしゃったかも?……」とユーモアを交えてあいさつ。さあ、今度こそ本当に開演だ。 オー、わぉー、ハッ!、かわいいー、うるうる……(感動はご自分で体験して下さい)
   『美女と野獣』は二幕構成のため、途中に休憩がある。耳をダンボにして、近くに座っていた無骨そうなにいちゃんの電話での会話を聞く(すいません、礼儀がなくて)。「おいおい、ホントにすごいぜ。俺は別に興味なかったんだけどさ、こりゃ、観に来てよかったよ。でもよ、ドライアイスがドヮーっと襲ってきて、あれには参ったけどな……」。こっそり聞いていただけに、はっきりとした内容は聞き取れないが、内容はざっとこんなところだろう。「精彩、精彩、精彩、精彩、精彩」と何回言っただろう? 客席を見回すと、あちこちで電話連絡をしている姿が。きっと、真っ先に知人に興奮を伝えていたのだろう。
劇場の外で開演を待つ
   さて、中国語について。うん、大体わかる。中国滞在一年ちょっとの筆者にも聞き取れた。声が低い野獣のセリフは聞き取りにくいが、ダイナミックな演技に引き込まれればこっちのもの。ストーリーが目に浮かんでくる。「ミュージカルは総合芸術」という言葉を聞いたことがあるが、まさにその通りだろう。言葉がわからないところでも、ストーリーはわかる。「これが子供から大人までに愛されるDisneyの魅力なんだ」と、今さらながら敬服した。
   最後に、また携帯の話。第二幕が始まる前、再度「電源をお切り下さい」のアナウンスがあった。が、そのアナウンスが終わって会場がシーンと静まり返ったところで、また「トゥルル……」。会場は笑いで包まれたが、筆者の心は煮えくり返る。楽しい劇場でのちょっと哀しい出来事だった。

●10月22日(金)

日中の政・財界から
お祝いの花が届いた
   待ちに待った開幕の日。劇団四季の方、北京劇場の関係者は準備に大忙し。かわら版編集部も初日の様子を見ようと劇場へ。が、関係者以外は劇場のホールにも立入禁止。公演祝いの花輪の写真を撮影中、係員から追い出されてしまう。政治家などの隣でにらみを効かせているSPと同じ目をした係員から「出ていきなさい」と言われたら、「はい」としか言えない。アー、怖かった。劇場の駐車場には高級車がずらり。初日の観客はお偉い様が多かったのかもしれない。 (後日談……初日のこの日は、李嵐清国務院副総理も観劇されたとのこと。道理で警備が厳しかったわけだ。劇団四季の広報部の瀧内さんによると、数十名の公安関係者の方が、指定した席ではなく、競って李副総理の近くに座ったので、開演前にはちょっとした混乱があったとか。見えないところでそんなドラマがあったとは……)
中国の方々の反応は?
   劇場の外で待つこと約一時間半、第一幕と第二幕の間に外に出てきた中国人ご夫婦に公演の感想を伺った。 「すごい舞台だね。舞台美術も劇もいい。中国の京劇も好きだけど、芸術性が高くて単純には楽しめないんだよね。でも『美女と野獣』は歌あり、踊りありで、使っている言葉も日常語だから観ていて心地良い。なんていうのかな、リラックスして楽しめる。ミュージカルを観るのは初めてだけど、このタイプの劇なら中国でも人気が出ると思うよ」
   休憩が終わる頃、外で一服していた観客たちは、目を輝かせて劇場に戻っていった。たぶん、彼らの感想が、今後の公演の力になるのだろう。

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