何がおきてる?
中國經濟

第一回
「人民元切下げのうわさと人民元闇市」

日本貿易振興会アジア経済研究所 岡本 信広

   最近また外国メディアを中心に人民元切下げの可能性がさぐられるようになった。中央政府自身も以前ほど強い態度で人民元切下げ可能性を否定していないし、今年前半期輸出が伸び悩んだこと、アジアが金融危機から回復しつつあることが背景にある。
   現在中国の外為市場では資本取引を認めていないので財の輸出入の裏返しとしてレートが決定される。すなわち輸出が減り、輸入が増加すればその支払通貨としてのドル需要が発生しドル高・人民元安の圧力がかかる。実際には貿易の安定性を維持するために政府が米ドルとの固定相場制度を採用している。
   確かに資本取引は公的に存在しないが、ドルと人民元を交換する闇市は存在する。また我々駐在員が本国から送金されてくる外貨を人民元に交換するのは資本取引の働きである。すなわち貿易という財のやりとり以外でドル・人民元が交換される市場は一種の外為資本取引である。闇市(中国語の「黒市」)から中国における外為資本取引を考察し、人民元切下げの可能性を考えてみよう。
   現在中国の外為闇市では、1ドルのレートが北京8.8元、上海8.9元、広州9.0元と言われている。国家の公的レートよりも人民元安なのは@出国の際に公式に交換できる外貨の額が2千ドルという上限があるため闇市でのドル需要が高い、A過去人民元は切下げられてきたため心理的に人民元よりもドル選好が強い、B国有企業改革とともに将来を不安視する人たちの貯蓄性向の高さ、実際にドルの方が人民元より定期金利が高い、ということがあげられる。地域差が出ているのは@の出国要因の差であると思われる。
   10月下旬の闇市での交換レートは、固定客がある場合,外人のドル売り8.75元程度、出国者がドルを黒市で買う場合8.78元から8.8元あたりである。そうではない場合(銀行でたむろしている「あの人たち」と交換する場合)彼らはドル買い8.7元でドル売り8.9元あたりで交換している。これは闇市という性格上偽札をつかまされるリスクを考慮したものである。
   この価格の変動は資本取引を認めた国の外為市場と非常に似た動きをする。NATOの中国大使館爆破事件で駐北京アメリカ大使館が閉鎖した際、ドルは8.5元まで下落している。出国手続きがしにくくなったこと、アメリカと中国の関係が将来的に一瞬不透明になったためである。また闇商人の間で電話を使った連絡が横で取られているため、レートは常にどこも似たように変動する。現在のドル供給・需要状況が無意識に彼らの横の連絡網によって把握され、需給が一致するようレートによって調整されているのである。まさに外為の資本取引であり、立派な外為市場である。もし闇市場がインターネット等通信技術を発達させたなら北京・上海間等の地理的なレートの差も解消されるであろう。
   このように闇市は一種の外為の資本取引市場であり、この闇の資本取引(外資流出入や経済援助の増減は含まない)と公的外為市場の規模が同じと仮定すれば将来的には少なくとも1ドル=8.5元レベルでの安定になる。ということは現在の公的レートの設定は人民元高であり、人民元切下げ可能性として10%〜15%の切下げ幅は非常に現実味を帯びているといえる。またこの闇市は将来の人民元のレートを占う上で一種の先物市場ともいえるのである。
   ただし実際の外為市場でのレートは7月より中国の輸出は回復しつつあるので人民元高圧力がかかっていること、しかしながら外資に撤退が見られること(人民元安圧力)、人民元切下げの決定は香港等への影響を考慮して非常に政治的に行われる可能性が高いことを付け加えておく。

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