◆◆留学生必見◆◆
中国サバイバル指南 第4回
社会人インタビュー VOL2

   このコーナーでは、夢を抱いて留学している留学生、中国で事業を起こし成功している日本人を紹介し、中国で成功するヒントを提供します。
   社会人インタビュー第2回目は、オーストラリア人のPaulさんと共同で、言語サービス会社を経営されている下山さんのご登場。日本、アメリカ、中国の3国で働いた体験を話して下さいました。

企画・構成・執筆 坪井信人

私たち二人ができること、
「言葉」で勝負しよう

あ、中国か、よし、行ってみよう!

《プロフィール》 下山 珠緒(しもやま たまお))
(向かって右、向かって左は共同経営者のPaul E. McArthurさん)
慶応大学文学部社会学科卒業。ソニー(株)勤務中に応募した「北米大学教育交流委員会」の奨学金試験に合格し、米国アーカンソー州立大学大学院に留学。授業の傍ら教壇で日本語を教える。修士課程を終了後、2年間、フルタイムで日本語講師を務める。95年春、北京語言学院(現北京語言文化大学)留学。96年11月、Paul E. McArthurさんと共同でAccuracy Language Servicesを設立。業務内容は翻訳、通訳、英会話レッスンなど。ご本人は日英の通訳者としても活躍中。なお、翻訳、通訳等のパートタイムスタッフは随時募集中。お問い合わせは下記まで。
●Accuracy Language Services
北京朝陽区建国門外南郎家園 大北写字楼515室
TEL.010-6568-5313
E-mail:accuracy@public3.bta.net.cn

かわら 下山さんは、アメリカで日本語講師をしながら、マスコミュニケーション学を勉強したとお聞きしました。なぜ中国と関わるようになったのですか。

下山 90年夏から四年間、アメリカで生活していた頃、アメリカでは中国のニュースが多く、「あ、中国か、面白そうだな」と思ったのがきっかけです。元々、「英語以外にもう1カ国語習得したい。勉強するなら文化に肌で触れながらがいい」と思っていたので、多くを考えず中国に来てしまいました。

かわら バイタリティがありますね。

下山 向こう見ずなだけです(笑い)。

かわら では中国に来てからはどのように勉強されたのですか。

下山 まず、半年の予定で語言学院の速成班に入りました。前号の森下さんがおっしゃっていたように、語学勉強なら短い時間で「ギュッ」とやるのがいいと考えたからです。その後、留学を延長し、実際は一年間語学のコースに通いました。

かわら いつ頃から中国で事業をしようと考え始めたのですか。

下山 大学を卒業して、日本のメーカーで働いていた時も、おぼろげながら会社を作りたいと思っていました。夢のようなものです。その後アメリカ留学、アメリカでの仕事を経て中国に来たわけですが、経済がすごいスピードで発展している中国に刺激され、「ここでビジネスができたら面白い」と考えるようになりました。

「品質とサービスで勝てる」
      そう、確信した

かわら 現在の事業を始めたきっかけは何ですか。

下山 今の共同経営者Paulと、留学中から自分達ができるビジネスの可能性をよく話し合っていました。私はアメリカで日本語講師をしたり、短期間ですが自動車関連のテクニカル通訳をした経験があり、オーストラリア人で母国語が英語のPaulも、英語教授法の資格をもち豊富な経験をもっていました。そこで「言葉が安全だろう」と考え、翻訳、通訳、英会話レッスンを柱にした会社を立ち上げることにしました。しかし、中国で会社を立ち上げるのは想像以上に難しかった。中国の友人に間に入って頂いて、申請から一年近く経ってようやくライセンスが降りました。

かわら 中国滞在にはビザの更新が大きな問題ですが。

下山 そうですね。学校には一年通っただけでしたが、一年半の学費を払って仕事の準備をしていました。それでもなかなかライセンスが降りなかったので、ビザの有効期限がぎりぎりになってしまい、一度香港に出て旅行ビザを取り直したり、もうライセンスは降りないだろうとあきらめ就職活動を開始し数社と面接を始めたりもしました。

かわら 会社のライセンス、就労ビザを取得後、事業スタートに向けてどのような準備をされましたか。

下山 まず、翻訳や通訳をしている同業他社を電話帳や知人の紹介で調べ、電話対応のようなサービスから仕事の品質までを調査しました。結果は、「すごい」の一言です。品質の良い仕事をしていた会社は少なく、ひどい会社が多かった。例えば、中国語を日本語に訳したものを読みましたが、誤訳あり、文法には間違いありという状態。日本人が読めばすぐに間違いだとわかる翻訳を堂々としていたのです。当時の翻訳会社の仕事は、先進国の観念でいう「ビジネス」との差が本当に大きかった。そこで、良い品質と良いサービスの仕事をすれば必ず成功すると思いました。今では当時と状況が変わり、しっかりとした仕事をしている会社が増えました。これはうれしいこと。お互いの競争で品質がアップし、それぞれの会社の利益になると考えています。

「ワァと広げても……」業種を絞り込もう

かわら 事業内容を具体的にお聞かせ下さい。

下山 翻訳、通訳、英会話レッスン、つまり、「言葉」に関する事業を行っています。最初はお客様の開拓から始めたので、広い分野の仕事を引き受けていました。しかし、「今日は法律、翌日は経済」といったように全く別の分野の仕事をするとなると、それぞれに詳しい人を探さなければいけないので、高品質を保つのがどうしても難しかった。そこで一年半ほど前、「ワァっと領域を広げるより、一つの業種に強い方がいいのでは?」と考え、自動車産業の翻訳、通訳に重点事業を絞り込みました。良いものを作るには特化が必要だということに、もっと早く気付けば効率が良かったんですが(笑い)。

かわら ここでアメリカで経験した自動車関連のテクニカル通訳の経験が生きたんですね。
二人の経営者の人徳か?
仕事中の社員の表情はこんなに明るい。

下山 そうですね。ちなみに私たちの事業は、自動車産業の中でも、エンジニアが読むサービスマニュアルやトレーニングマニュアル、それからオーナーズマニュアル、自動車産業関連の法律といった専門性が高いものが中心です。業種を絞ってからも、品質に自信が持てるようになるまでには時間が掛かりましたが、今では、自動車テクニカル関係の翻訳なら、品質でもスピードでも他社に負けない自信がつきました。その他規模は小さいですが、一般法律、ホテル関係を始め、テレビCM、ドキュメンタリーなどの翻訳も引き受けています。

かわら 英会話レッスンというのは?

下山 中国の多くの外資系企業では、中国人社員の英語力の向上を求めています。そこで、英語教師の派遣をはじめ、英語でのプレゼンテーションの指導、管理職養成トレーニングなどが必要な時、企業が必要とする教師を派遣しています。またお客様からの要望に応えて、中国人社員に外資系企業で働く上でのマナー教育も行っています。

専門家と一緒に仕事、 自信の品質をキープ

かわら 仕事の品質を保つ方法は何ですか。

下山 専門家と一緒に仕事をすることです。自動車関連の翻訳に力を入れていますから、自動車のエンジニアを正社員として雇用しています。その他の翻訳、通訳、英会話レッスンも、それぞれの分野に長けた方、専門分野を持った方を雇用して質の高い仕事を目指しています。ですから正社員十名の他に、五十名を超えるパートタイムのスタッフと仕事をしています。品質がキープできない仕事は引き受けません。また各種仕事を下請けに出すと情報がドロップしてしまう恐れがあるため、すべて社内で処理しています。例えばカタログの翻訳を頼まれれば、印刷が終わったカタログの状態で納入する。すべてを自社で管理することで、時間、コストが削減でき、品質も保証できるわけです。お客様に迷惑を掛けるわけにはいきませんからね。

かわら では、仮に日本人正社員を採用するとしたら、どんな人材がほしいですか。

下山 仕事によってほしい人材は違うので、一言で言うのは難しいですが、通訳を採用すると仮定した場合、母国語と外国語の二カ国語のレベルが高い人が理想です。母国語がしっかりしていなければ、それよりレベルが劣る外国語に信用が置けません。また、オープンマインドというか、何にでもフレキシブルに対応できイニシアチブが取れる方。例えば、ある仕事をお願いした時、壁にぶつかったとします。そんな時壁を乗り越えていける、解決法を編み出していける方です。今までいろいろな方と仕事をしましたが、自分で解決法を考えずに、「問題が発生しました」と報告に来た人がいました。これでは困ります。
   偉そうなことを言っているように聞こえるかもしれませんが、実は私自身も試行錯誤でやっています。規模が小さい会社では、一人ひとりの力が会社の方向性を決めます。一人の力が会社にとってマイナスにもプラスにもなることが大企業との違いですね。

「変化があるぞ!」 いつでも心の準備

かわら 下山さんは中国で、外国人として、仕事をしているわけですが、中国で仕事をするにはどんな心構えが必要だと思いますか。

下山 長期的な視点が必要ではないでしょうか。中国は速い速度で経済発展していますが、「一攫千金を狙ってやろう」と思ってもなかなか簡単にはいかないものです。中国と日本ではビジネスのやり方が違い、一緒に働くのも中国人です。相手のペースを理解して、相手の考え方を受け入れられなければ仕事になりません。自国の理論を持ち込んで押し通そうとすれば悪戦苦闘することになるでしょう。長い目で見て仕事をする。そうすることで良い結果が生まれると思います。
   また、中国では何でも早いサイクルで変わっていますから、その変化にフレキシブルに対応しなければいけません。そこで、「いつ変化があるかわからないぞ」「いつでも変化があるぞ」と、心の準備をしておくことが大切です。
   それにこれは中国に限ったことではありませんが、お客様への感謝の気持ち。お客様あってのビジネスですから、大変お世話になっているお客様には本当に心から感謝しています。  

かわら 最後に、留学の先輩として、今の留学生に一言お願いします。

下山 私がアメリカに留学する前、友達がはなむけにくれた、「大学を卒業して学べる時間が持てるのはどれだけ貴重か。時間を大切にして、この貴重な経験を生かして下さい」という言葉が、中国留学の時もずっと心にありました。私は一度社会に出て働いてから留学したので、学びたいものが大学の時よりはっきりと見えていました。会社、仕事というプレッシャーなしで学べることが、「自分の栄養になる」と心から感じましたね。仕事を始めると、仕事以外の人間関係などでもプレッシャーを感じるものです。今留学している方にも、貴重な経験をしているという意味をかみしめて過ごしてほしいと思います。

かわら ダイナミックな体験談をありがとうございました。

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