食事介護ガイドブック

1 障害者と食べること





1-1 食べることの問題


 食べることの障害のことを摂食、嚥下障害といいますが、これはさまざまな病気で問題となります。というのは、食べることの問題はいろいろあるからです。たとえば、単に摂食障害といえば、拒食症のように食べることを精神的に拒否してしまうことを意味します。
 食べることは本能的な行為だから、自然にできるようになるものだと誤解されています。しかし、実はきちんと食べ物を噛んで飲み込むということは、発育の途中で学習しなければならない高度な機能なのです。知的障害者で、離乳時に食べることを学習できなければ、成人になっても食べる機能が発達していないことがあります。
 先天的な疾患や、乳幼児期に病気により脳に障害が残った場合(脳性マヒ)には、四肢の機能や言語機能の障害にとらわれがちですが、同時にこうした食べる機能も損なわれていることも多いのです。また、成人してからも、脳卒中などの後遺症により同様に損なわれることがあります。進行性の病気により徐々に機能が失われていくこともあります。
 施設の入所者や家庭で介護されている短期入所者にも、この機能に障害があることが少なくないのです。その障害について、はっきりと把握しておかなければなりません。

摂食嚥下障害の原因
精神的原因 拒食症
身体的原因
 器質的障害 腫瘍、炎症
  口腔部 口唇裂、口蓋裂、無歯顎、小顎症
  咽頭部 喉頭蓋炎
  食道部 食道閉鎖、狭窄症
 機能的障害
  先天性 筋ジストロフィー、先天性代謝異常
  後天性 脳性マヒ、脳血管障害後遺症、脊椎小脳変性症

 
 では、具体的に、障害者の介護においてどのようなことが問題になってくるのでしょう。最も危険なのは、食べ物を喉に詰まらせて窒息してしまうことです。この時すばやく的確に処置を行わないと、致命的な事故につながってしまいます。
 重大結果に至らないためには、窒息時の救急処置をトレーニングしておかねばなりません。しかし、それよりもまず窒息することを未然に防ぐことのほうが大切です。
 そのためには、食べることの障害はどのようなことかを知っていなければいけません。
それによって、どのように危険かがわかり、対処策を考えられるからです。
 ただし、食べることの障害を知るためには、そもそも正常な食べることについて理解していなければなりません。でなければ、どのような疾病によって、どのような食べる障害が発生するかを正しくわからないからです。




1-2 食べる機能


 食べることとはどのようなことなのでしょう。
 ・空腹の時に、食べ物を見るとそれを食べたいという気持ち(食欲)が起こります。
 ・食べ物が自分のものであれば、近寄って手に取り口に運びます。
 ・大きいものであれば口にはいる大きさに噛み切って、口の中に入れます。
 ・そして、口を閉じて食べ物を噛んでいきます。
 ・ある程度噛んだならば、食べているものを丸めて、それを呑み込みます。
 ・喉を通って、お腹に入っていく感触があります。
 このように、食べることは、精神や多くの器官による協調的な作業が必要とするのです。これを、段階別に詳しく見ていきましょう。

(1) 食べる意識
 食べようという気持ちを起させるのは大脳ですが、これが目覚めていなければ食べることはできません。病気や障害のため、意識がはっきりせず、ぼんやりしていたり呼びかけないと寝てしまう状態で、食物を口の中に入れるのは非常に危険です。

(2) 口に持っていき、入れる。
 食べるという意識がはっきりしていても、四肢の運動に障害があると、食器を使って食べ物を口に入れることが困難になります。食器を使って食べることは、高度な運動能力を必要とします。
 口唇を閉鎖することができない場合もあります。口に食べ物を入れても、口唇を閉じることができないで、食べ物がぼろぼろこぼれてしまうのです。

(3) 噛んで丸める。
 噛むことを咀嚼といい、離乳期に練習により習得されます。下顎の動きは単なる上下運動ではなく、すり合せるような回旋運動をしています。高度な運動ですが、歩行運動などと同じように幼児期の訓練により、ほとんど無意識で行えるようになるのです。
 この咀嚼では、舌が食べ物をいろいろな場所に移動するという重要な役割をしています。舌と頬の動きによって、食べ物を口からこぼれずに、歯の噛む面にのせておかなければなりません。
 舌の運動に障害があれば、咀嚼はうまくできません。また、唾液も重要です。疾病や脳血管障害の後遺症で、唾液が出にくかったりしますと、呑み込みやすい食べ物の塊(食塊)を作ることができません。
 もちろん、虫歯などで歯が無い場合には、入れ歯を作るか、すぐに呑み込みやすい形の食べ物にする必要があります。

(4) 呑み込み(嚥下)
 こうしてできた食塊を、喉から食道を通って胃まで送り込むのが嚥下です。
 まず、呑み込みやすいように食べ物を塊にして、舌の奥の中央に置きます。ここから、喉の奥(咽頭部)に送り込むまでは、意識的なものですが、その後は、反射と言われる自動的な動きにより胃まで送られます。嚥下は非常に巧妙で複雑な動きです。