ACT 3.0
彼氏の事情

原画

斉藤英子 内納健治 池原百合子 宮地聡子
丸山 隆 砂田茂樹 芳垣祐介 石崎寿夫
高村和宏 高橋拓郎 平松禎史 中山由美
今石洋之

98年10月16日放送

脚  本:庵野秀明 作画監督:今石洋之

絵コンテ:今石洋之 演  出:安藤健
     

四字熟語のコーナー

こうぼうしんじょう
厚貌深情

本心を顔や姿で厚くつつんでいる意。外面的には温厚に見えても心の奥深くでは何を考えているのかわからないこと。

 

親の記憶はそれだけ。たった、それだけ。

 前回のあらすじは月野花野の二人が喋るのみにあきたらず、登場するまでになってしまった。

 二人の高テンションな喋りが終わると、すぐに泣いている幼少の有馬となる。今回は彼のコンプレックスの回だ。

 雪野が登場すると「最近ありまは変だ」と楽しかった先週までの回想となる。有馬宅に行った時など雪野は見栄なしで付き合うとすごい。ただ原作でも思ったことだが、雪野は好きな男子の家に行くにしては緊張も何もないのが不満である。恋にうとい雪野らしいといえばそうなのだが。

 反対に雪野宅では宮沢一家の楽しさが爆発し、「男だと〜!」と父がかけつけるシーンは『ど根性ガエル』のようでAプロの作画を彷彿とさせる。この二つの家庭を見る中で、有馬には思うところがあった。

 この回では原作ではさらっとした感じの有馬の苦悩と思い出を、かなり濃密に描き、前回までと比べるとかなり重苦しい。しかし傷程度にしか感じなかった原作に比べ、全てにおいて完璧を目指す彼の理由とトラウマが、がぜん納得のいくものとなっているのではないだろうか。そして雪野の人にとらわれない無鉄砲さとも対照的で、よりお互いが気になる動機も見ていてわかりやすい。

 この回が重苦しいながらも見ていて苦にならないのは、表現力豊かで的確な音楽のせいもあるのではないだろうか。有馬が雪野の手を払ってからの回想シーンでの心が締めつけられるような曲は、最後の独白でも使用されこの回のテーマともいえる。Bパートでの有馬の今の両親との回想での曲もよく、安らいだ彼の心情が伝わってくる。

 最後の有馬の独白は、いままでならば回想シーンを挿入などして見せるところだが、先程いった曲がかかりながら、淡々と喋る彼と聞き入る雪野が映るのみである。しかしこれが彼の閉塞感とその場の緊張感を伝えることになり見事に成功している。この空気があって、その後の雪野との会話が生きてくるのである。

 独白後に雪野が「−ああ、私、この人が好き」というカットは声にエコーがかかり、いかにもな背景が横に流れるのだが、これだけでこんなにも少女漫画の表現になるのかといたく感心する。

 突然有馬をぶん殴った後に、前回よりアップテンポの「夢の中へ」のアレンジが流れる。有馬を指差す際の雪野スタンプや間が実にいいし、沈みこまない雪野とこの作品のスタンスを垣間見たように思う。

 一番最後の有馬に再度告白された際の、ほとんど線画で顔を赤くする雪野も感覚的な描写でよい。

 この回は最後の方まで雨が降っており、それが有馬の心象とダブって見える。蛇口から落ちる水滴と、パイプから流れ出る激しい雨水は、彼の涙や行き場のない感情を表現しているのではないだろうか。

(余談だが、すれ違う二人の話で全編雨が降り続き、最後の和解で空が晴れ渡るという構成は『水色時代』の実質上の最終話ともいえる38話「あの頃のように」とよく似ている)

これが本当の有馬君!

 

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