Exit

いかにして日本縦断したのか



「日本縦断してみたい」

具体的に考えた人はもちろん、ただ思っただけ想像しただけなんてのも含めると、
かなりの方々が思ったことはあるだろう。
かくいう私も現実的に考えたことなどなく、過去にそんなふうに思ったことがあるだけの人物に過ぎなかった。
「宝くじが当たったらなぁ」と同レベルの話で、それほど熱心に望んでない分、宝くじよりもっと興味が薄かったくらいだ。

そんな私が4回も日本縦断(とは言ってるが、ホントに縦断したと言えるのは4回目だけのような気もするが)に出たきっかけは、
ミニというクルマに乗っていることだと思うのだ。
もし、車中泊でもなんでも楽チンな国産ミニバンなんかに乗っていたら、
たぶんせいぜい近場でキャンプ程度が関の山だった気がする。

北海道から内地までクルマで行くという行為は、
仕事でもない限りかなりの大事だというのが、渡航前の私の概念だった。
そもそも、行くための時間がない。
たいていの人はすでにこの問題がクリアされずに実現不可となる。
次に家族持ちの方は家族同伴か単独かという問題がある。
家族同伴の場合は単独の場合に比べて宿泊、食事など多数の制限が増えると思うし、
それに伴い費用も問題になるだろう。

私の場合、この点がクリアだったことが物理的要因としては大きかった。
まず家族がいない私は、自分さえよければ宿泊も食事もどうでもいい。
ミニで車中泊する覚悟があれば、駐車さえできれば宿には困らないわけだ。
実際の旅行では、魚肉ソーセージが主食になってるように、食い物も粗食で十分というありがたくない素質もあった。

渡航に対する引き金を引いたのは、余暇であった。
私の業界の常だが、会社では「完全週休2日制」だと言いながら、
現実には土曜も日曜も休日出勤は当然、しかも休日になるかどうかは前日までわからないという場当たりっぷりである。
会社によってはシフトを引いたり、あるいは休日出勤に対する補償をきちんと行なうのであるが、
残念ながら、我が社(というか、退職したので元の勤務会社)では、
年間に40日以上の休日出勤はしているのだが、とくに賃金を支払うでもなかった。
ただ、これもまた業界の常で、1年のうち4月だけがまるで仕事がないので、
4月の間に10日間だけ代休を取れるシステムになっていた。
週休2日の土日を合わせれば、1週目土曜〜2週目日曜と16日間連続で休めるわけだ。
入社2年目まで、この代休を中途半端に過ごしていた私は、
休んでいても金はかかるし、そうかといって誰も遊ぶ相手もいない。
ほとほとまったくムダだと思ったわけで、どうにかこの期間を有効利用できないかと考えていた。

ところが入社3年目の8月に新車でミニを導入したことで、状況は一変する。
もともと、休日毎に北海道縦断のような天塩−札幌間往復を繰り返していた私は、
長距離を運転することに慣れてはいたが、それはあくまで移動にすぎなかった。
しかし、ミニに乗るにあたり、移動のための運転それ自体が大きな楽しみになったのだ。
そこで、翌年の春の長期休暇はミニで遠くまで行ってみようと考えたわけである。
当初は北海道をまわろうくらいに考えていたのだが、
ミニがまだ新しいうちにでないと、怖くてこんなことができないだろうと、一気に内地渡航にまで考えが発展したわけだ。

なにせ、とかく故障の恐怖がつきまとうミニである。
というか、そういうものだと洗脳に近いほどの予備知識が世間に流通する情報から与えられており、
初めての渡航前は本気で、車両が新しいうちでないと無茶できないと思っていたのである。
この勘違い(というか、そんなことはまるでないということを、すぐに悟るのだが)が、
ある意味踏ん切りをつけるきっかけになったのだがら、何が幸いするかわからないものである。

かくして、初めての日本縦断は特に周到な計画があったわけでもなく、
いけるときにいっとけみたいな勢いで実行に至ったのである。



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