Reading 2000



12月( 9冊) 11月( 9冊) 10月(10冊) 8月〜9月(5冊) 7月(6冊)


 2000年 12月 
 ほんとうの私を求めて 遠藤 周作 集英社文庫
 おそらく女性向けの雑誌に掲載されたエッセイをまとめた作品です。                
 読者への語りかけが優しいです。

 不安な演奏 松本 清張 文春文庫
 松本清張氏の作品を読んだのは、10年以上ぶりです。
 現在、売れっ子の推理小説作家達と比較すると、格段に良いです(比較することすら間違いですが)。
 ただ、葉山良太の事件を追う目的が今一だったような気がしました。

 すべての男は消耗品である。 村上  龍 角川文庫
 村上龍氏のエッセイ集です。タイトルから想像するほど強烈な内容ではなかったです。
 要するに女は強く、男は弱いということでしょうか。

 最後の花時計 遠藤 周作 文春文庫
 遠藤周作氏の絶筆と言っていいエッセイ集です。既に病気で相当苦しんでいたはずなのに、そんな様子
 は一切表現されていません。
 人は人生の最後に何かを悟るのでしょうか。

 我らが隣人の犯罪 宮部みゆき 文春文庫
 5つの作品からなる短編集。表題作の『我らが隣人の犯罪』で宮部みゆきさんは『オール読物』推理小
 説新人賞を受賞しました。以後、次々と傑作を発表し続けるわけです。
 『我らが隣人の犯罪』は実にいい。読み終えてタイトルの持つ意味がわかります。
 『サボテンの花』のような作品における発想に触れると、宮部みゆきさんの頭の構造はどうなっている
 のだろうと思ってしまいます。

  柳  美里 小学館
 今年ベストセラーになった作品です。週刊ポストに連載されたのですが、最初お腹の大きい柳美里さん
 の写真を見た時は、衝撃的でした。
 結婚している男性との間にできた子供、その男性との別れ、東由多加氏の闘病生活と死。
 「生と死がくっきりとした輪郭を持って迫ってきたとき、胎内の子と東のふたつの命を護らなければと
 いう使命感にも似た感情に激しく揺さぶられたのだ。」
 人間の生と死は、どこかで交錯するのでしょうか。感動的な作品です。

 点と線 松本 清張 新潮文庫
 松本清張氏の作品を今月は2つ読みました。いやはや実に素晴らしい作品。
 この作品は松本清張氏の処女長編推理小説で、これにより”社会派推理小説”なる造語ができたそうで
 す。筋書き、犯行の動機、アリバイ破り、すべて良いです。
 お金を払って本を買って読むのだから、これくらいの内容は当たり前のはずですが、最近の作家は全然
 ダメですね。ほとんどの売れてる推理小説作家の作品はお金を払って読むに値しません。

 夫の宿題 遠藤 順子 PHP文庫
 1996年に亡くなられた遠藤周作氏の妻、順子さんの作品。
 帯に「夫・遠藤周作氏との43年間の思い出と共に、美しい人間愛が綴られる感動の書。」とあります。
 臨終の時、遠藤氏と手を握ったままで「俺はもう光の中に入った、おふくろにも兄貴にも逢ったから安
 心しろ!」というメッセージが送られてきたそうです。
 世の中には科学では解明できないことが、まだまだあります。感動します。

 美は乱調にあり 瀬戸内晴美 角川文庫
 瀬戸内寂聴さんの晴美さん時代の作品です。
 平塚雷鳥の主宰した『青鞜』へ参加し、無政府主義社会主義運動の唱導者として有名な大杉栄の妻とし
 て、大杉栄と共に虐殺された伊藤野枝の半生を書いています。
 非常に良い作品ですが、伊藤野枝の最後までは書かれていないのが残念です。


 2000年 11月 
 信 長 秋山  駿 新潮文庫
 信長のこれまでに定説に、ことごとく疑問を投げかけ、深く追求した作品。野間文芸賞と毎日出版文化 
 賞を受賞しています。
 信長の実像に迫っているのではないかと思われ、面白いです。しかし『信長公記』を引用するのは信長
 の話なので仕様がないにしても、ヴァレリー、スタンダール、プラトン、モンテスキューなどの引用が
 非常に多くて疲れてしまいます。

 作家論 三島由紀夫 中公文庫
 森鴎外、泉鏡花、川端康成など作家15人をとりあげた作家論です。非常に難しいので、この中に出て
 くる作家の作品を読んでいないと意味不明です。
 私はほとんど理解できませんでした。

 太陽の季節 石原慎太郎 新潮文庫
 石原東京都知事が芥川賞を受賞した『太陽の季節』など5つの作品からなる短編集。
 数年前に買ったものの、活字が小さく読むのをためらっていました。
 しかし、読んでみると面白かった。文章は読みやすいし、ストーリーも良かったです。
 『処刑の部屋』が一番良かった。どの作品にも何とも言えない恐さが潜んでいるような気がします。

 目 撃 津村 秀介 トクマノベルズ
 進学塾帰りの女子高生が刺殺され、現場には「55」というダイイングメッセージが残されていた。
 しかし、どうして、わざわざ「55」という暗号みたいなメッセージを残すのでしょうか。
 ネタばれですが「銀行」と残せば良いと思います。死に際で「銀行」難しいなら「ぎんこう」でも
 「銀」の一文字だけでも「55」よりはわかりやすいと思います。

 蒼 氓 石川 達三 新潮文庫
 第一回芥川賞を受賞した作品。この時太宰治の『逆行』が候補になっていました。
 作品名からして難しい内容なのかと思っていましたが、非常に面白い作品でした。
 ブラジルへ行くまで、ブラジルへ行く船の中、ブラジルに着いた数日間を書いていて、何故当時ブラジ
 ルに移民しなければならなかったか、移民した人達の気持ちなど、色々わかりました。
 65年前の作品ですが、文章も読みやすいです。

 海辺の光景 安岡章太郎 新潮文庫
 長編『海辺の光景』と5つの短編からなる作品集。安岡章太郎さんの文章は実に上手いと思います。
 最近の若い作家でここまで上手い文章を書く人はいないのでは。
 精神病院に入院している母を見舞い、母が死ぬまでの数日間と昔の回想を織り交ぜている『海辺の光景』
 はとても良い作品です。『雨』と『ジングルベル』も良かったです。
 また『秘密』のような不思議な作品も安岡さんは書くのかと思いました。

 蓮如伝説殺人事件 木谷 恭介 ケイブンシャ文庫
 結構面白く読んでいたのですが、最後の最後でガッカリ。。。こんな犯人設定はひどすぎる。
 この犯人の動機が今一だし、何故、そんな危険な殺人をしたのかも不明。それに警察は犯人のアリバイ
 くらい確認したのではないでしょうか。
 こっちが犯人か、あっちが犯人か、いややっぱりこっちが犯人だと思わせておいて、全然違う人が犯人
 という狙いはわかるが、これじゃぁ全然ダメですね。

 夏の終わり 瀬戸内晴海 新潮文庫
 5つの作品からなる短編集。最初から4つ目までは連作短編。表題作の『夏の終わり』は女流文学賞を
 受賞しています。
 瀬戸内さんの作品は女の気持ち全てを書いていないのに、全てがわかったようになるから不思議です。
 連作の中の主人公知子は誰かに雰囲気が似てるような気がします。三島由紀夫の『宴のあと』の女主人
 公かなぁ。。。

 月光の東 宮本 輝 中公文庫
 妻子ある男の自殺には女が絡んでいた。その女を男の妻と友人が別々に追っていく。
 男の友人と妻の両方が追っていくことによって、読者にはほとんど全てがわかる仕組みが面白いです。
 何と言っても『月光の東』というタイトルが格好いい。


 2000年 10月 
 仮面の国 柳 美里 新潮文庫
 まさに「怒濤のバトル・エッセイ集」です。柳美里さん、新潮文庫で初登場です。
 柳美里さんがこんなに激しく、鋭い文章を書く人だとは、夢にも思っていませんでした。    
 柳美里さん自身の〈サイン会中止事件〉を発端にした言論です。
 〈朝鮮人慰安婦問題〉〈須磨区少年殺人事件〉などに関するマスコミ、弁護士、作家などに対して持論 
 を展開して批判しています。
 結構難しくて、柳美里さんって頭の良い女性だと思いました。

 変わる医療現場 医療ルネサンス 読売新聞社
 1992年に読売新聞に連載した企画をまとめた本です。なかなか面白いです。
 少し前の本なので、内容が古くなった部分があると思います。
 201個の穴からガンマ線を照射して、脳深部にある腫瘍や脳動静脈奇形を焼き切る、ガンマナイフが
 すごいと思いました。

 ループ 鈴木 光司 角川書店
 『リング』『らせん』の続きものです。鈴木光司氏には『リング』を書いた時には『らせん』の構想は
 なく、『らせん』を書いた時にも『ループ』の構想はなかったそうです。
 『リング』はとても面白く、恐かったのですが、『らせん』は私にとって今一でした。
 しかし『ループ』は、よくまとまっていて良かったです。
 この作品を書くにあたり、鈴木光司氏がいかにたくさん本を読み、有識者に意見を聞き、勉強したかが
 わかります。鈴木光司氏の想像力というか創作力に驚いてしまいます。
 『ループ』を読まれる方は、必ず『リング』と『らせん』を読んでからにしましょう。『ループ』だけ
 読んだり『ループ』を先に読むと、面白さが半減してしまいます。 

 アルジャーノンに花束を ダニエル・キース 早川書房
 読んだ後、何とも言えない気持ちになる作品です。
 32歳で幼児の知能しかないチャーリーが手術により、超天才になっていくのですが、日本語訳が素晴
 らしいから、非常に上手く表現されています。
 私が今年読んだ本の中で、一番おすすめする本です。

 十津川警部「裏切り」 西村京太郎 角川書店
 先輩から本を何冊か頂きました。そのうちの1冊です。
 発想としては面白いですが、現実的ではないし、会話部分とかも雑だし、ストーリーもいい加減です。
 西村京太郎氏が書いたというだけで売れるのでしょうから、それほど真剣に書いていないのでしょうね
 きっと。

 虫も殺さぬ 太田 蘭三 カッパノベルズ
 太田蘭三氏の作品は初めて読みました。
 よく調べて書いているという感じを受けました。ストーリーはともかく、色々人情味がある作品です。
 それにしても緻密さに欠けています。
 刑事が聞き込みで、一ヶ月以上も前の日の午後のアリバイを確認するのですが、聞かれた方は、手帳な
 どを見ないで答えてしまうのです。普通覚えていないのではないでしょうか。

 十津川警部長良川に犯人を追う 西村京太郎 カッパノベルズ
 『十津川警部「裏切り」』よりは良かったです。
 私は途中から何となく犯人がわかったのですが、これって超有名推理小説の犯人設定と同じですよね。
 あと犯行の動機とか、色々疑問が多い作品です。

 摩周湖殺人事件 梓林太郎 角川文庫
 キオスクでタイトルをだけを見て買ってしまいました。
 結構内容は面白かったのですが、殺人の動機が今一に感じました。こんなに簡単に何人も人を殺したり
 しないと思います。殺人にまで至ってしまう決定的な動機が欠けています。

 タイル 柳 美里 文春文庫
 離婚し、マンションの部屋中にタイルを敷き詰める男の狂気を書いた作品とでも言うべきでしょうか。
 ホラー純文学と背表紙に書いてありますが「ホラー」ではないと思います。
 狂気というか異常さがよく表現されています。タイルを部屋中にする発想が奇抜ですが、柳美里さんが
 実際に体験したことなのではないでしょうか。

 自 殺 柳 美里 文春文庫
 最近は、柳美里さんの作品が気に入ってよく読み、今月3冊目です。「自殺」についてのエッセイです。
 私は36年も生きてきましたが、「死」また対極にある「生」について、これほど真剣に考えたことが
 ありません。
 「生の中に死をプログラムすべきだ」という言葉に、なるほどと思いました。
 「もしある日書けなくなったら、私は間違いなく死を選ぶでしょう」と書いています。
 柳美里さんには絶対自殺してもらいたくないです。


 2000年 8月〜9月 
 星々の悲しみ 宮本 輝 文春文庫
 文春文庫の「2000年夏の青春宮本輝フェア」ということで、思わず買ってしまいました。  
 7つの作品からなる短編集。
 『火』と『小旗』が良かったです。それぞれ「火」と「小旗」が目に浮かぶ作品です。

 聖書 その歴史的事実 新井 智 NHKブックス
 聖書には「歴史的事実」と「信仰的事実」があるということがわかりました。とにかく「全てを信じろ」
 というのは無理があります。
 少しずつ読んだため、理解度が今一です。再度読んでみたいと思う本です。

 ライ麦畑でつかまえて J.D.サリンジャー 白水Uブックス
 超有名な作品なので、どれほど面白いのかと期待して読んだのですが、そうでもなかったです。    
 その理由は、時代が違うし、国が違うからでしょうか。
 作品が発表された当時の40年前であったなら、斬新だったでしょうか?
 訳者の解説に「歯切れのよいきわめて個性的な文体のリズムが、主人公の一方的な自己主張や言動の矛
 盾などを孕みながら、いやが上にも作品の魅力を増大せしめていることもつけ加えなければならない」
 とあります。
 日本語訳することによって、原文の魅力が損なわれていると思われますが、訳者のせいではないでしょ
 う。

 柩の中の猫 小池真理子 新潮文庫
 小池真理子さんの作品を読んだは初めてです。
 もっと軽い小説なのかと思っていたのですが、戦慄を覚えるような恐い内容です。
 恐いですが、仮に私が雅代と同じ立場であったなら、同じ行動をしたと思います。
 知らないということは恐ろしいことです。ミステリーというより文学です。

 音 楽 三島由紀夫 新潮文庫
 きっと三島由紀夫の作品の中ではマイナーなのではないでしょうか。
 でも、私にとっては面白かったです。
 たぶん三島由紀夫は。この作品を書くために精神分析関係の本をたくさん読んだのでしょう。
 難しくて理解し難い部分もありますが、奥の奥、裏の裏まで手を抜くことのない作品だと思います。
 ラストの電報が実に良いです。

 少 年 ビートたけし 新潮文庫
 3つの作品からなる短編集。何かむずがゆくなるくらいに、少年の心を上手くとらえています。
 前にも書きましたが、才能はある人は何をやらせてもすごいと思います。
 「小説を書こうとすると、何故か、いつも少年の心を書こうと思ってしまう。」とあとがきで書いてい
 ます。「少年を題材とする小説はこれで最後にしたいと思っている。」とも書いていますが、これから
 も少年の心を書いてもらいたいです。


 2000年 7月 
 薬害エイズ終わらない悲劇 櫻井よしこ ダイヤモンド社
 櫻井よしこさんが薬害エイズに関しての厚生省批判をまとめた本です。何故かしら、身につまされるよ 
 うな感じがします。
 厚生省は反省しなくてはいけないでしょう。

 江戸川乱歩傑作選 江戸川乱歩 新潮文庫
 9つの作品からなる短編集。子供の頃よく江戸川乱歩の本を読んだ私ですが、久しぶりに読んでみまし
 た。代表作とも言える『人間椅子』は傑作中の傑作だと思います。
 『心理試験』は実に20年以上ぶりに読んだのですが、よく出来た作品だと思います。

 震える岩 宮部みゆき 中公文庫
 霊験お初捕物控ということで、時代物なのですが、超能力を持ったお初が事件を解決に導いていくとい
 う、時代物に超能力物をプラスした宮部みゆきさんならではの作品です。
 赤穂浪士の討ち入りを違った観点から捉え、宮部さんも芥川龍之介の『ある日の大石内蔵助』を読んだ
 のかなぁ、と思いました。
 それにしても江戸時代の随筆『耳袋』の中の『奇石鳴動の事』という200字にも満たない作品から、
 これだけの作品を仕上げるのはすごいことだと思います。

  柳 美里 メディアファクトリー
 柳美里さん初めての性小説です。体のパーツごとに章を構成しています。
 柳さんはストーカーに悩まされたそうですが、このような作品を出すと、ストーカーが増えるのではと
 心配になってしまいます。

 命ある限り 三浦綾子 角川書店
 三浦綾子さんの文筆生活30年を書いた本です。
 名作『氷点』が入選した話、『細川ガラシャ夫人』を書いた頃の話など、三浦綾子さんファンにとって
 は興味深いものがあると思います。
 三浦綾子さんもすごい人ですが、夫の三浦光世さんもすごい人です。

 小説太宰治 檀 一雄 岩波現代文庫
 以前にも読んだことがあるのですが、今年になって岩波から文庫化されましたので、思わず買ってしま
 いました。
 太宰治の人間性がわかります。『走れメロス』の題材になったのではないかと思われる、「熱海事件」
 が実にいいです。
 太宰治、檀一雄、優しい人だったのだなぁ、私は思います。



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