大阪樟蔭女子大学
ロングゼミ平成8年度卒業論文

平成9年度の卒論要旨はこちら


  1. 稲垣 裕美 「手話にみられる地域差」
  2. 新田 由花 「幼児の発話における共通語と方言 ーテレビ・生活環境を考慮してー」
  3. 伊田 朋代 「敬語意識と使用状況 ー店員の客に対する言語行動ー」
  4. 高木 妃早香「日本語学習者の方言使用に対する日本人と外国人との意識の違い」
  5. 奥村 修世 「『おはよう』の使用範囲における変化」
  6. 杉本 喜久美「場面における男ことば・女ことばの使い分け ー男同志、女同志、男女混合の場合の違いー」
  7. 上農 千鶴 「語呂合わせの構造と使用」
  8. 吉良 智子 「インターネットのホームページにおける方言について ー言語意識を中心にー」
  9. 岩根 由香 「大人の子どもに対するコミュニケーション行動 ー言語行動と非言語行動の関連性ー」
  10. 増田 径与 「印刷メディアにおける外来語の理解」
  11. 北本 純子 「社会集団の違いによる若者ことばの使用 ー擬声語・擬態語の畳語ー」
  12. 木村 清香 「旧植民地における日本語の使用状況 ー南洋群島を中心にー」


稲垣 裕美  「手話にみられる地域差」

 「手話」とは、主に聴覚障害者の間でコミュニケ−ション方法の一つとして用いられる言語です。最近は、テレビドラマなどでもとりあげられ注目されています。私自身も「手話」に関心を持ち、地域の手話サークルに参加し、実際に聴覚障害者の方にお会いし、手話を教えて頂いています。手話については、何の知識もなかったので最初は「手話は全国共通なのかな」と勝手な思い込みをしていましたが、手話にも地域差があるのだと教えて頂きました。 手話は視覚的な言語である為、音声言語と比べラジオやテレビを通して、様々な情報を遠く離れた場所に伝達するのが困難です。故に、地域的な手話表現の差が存在するのです。そこでその差を文献やサークルでの面接調査により収集し、どのような差があるのかを調べています。また、音声言語との比較についても文献を参考に考えています。


新田 由花 「幼児の発話における共通語と方言 ーテレビ・生活環境を考慮してー」

 言語は私たちが生活していく上で、欠くことの出来ないものであり、幼児の成長においても重要な役割を果たす。特に2才から4才位が言語獲得にとって重要な時期である。幼児はこの時期に、親との対話・テレビ・絵本などというように、様々な方法で自然に言語を獲得していく。東京に住んでいる幼児、大阪に住んでいる幼児を比較すると、言語に明らかな違いが見られる。しかし、同じ大阪に住んでいても幼児を取り巻く生活環境は、各家庭様々である。そこで、生活環境の違いが幼児の言語獲得にどのような影響を及ぼすか調査していきたい。調査対象として、大阪に住んでいる幼児4人(男児2人・女児2人)に協力をしてもらった。調査方法は、まず幼児の生活状況を詳しく知るためにアンケ−トに答えてもらい、そして幼児の日常会話をそれぞれ録音し、文字化を行った。現在、文法・音韻などあらゆる角度から分析を進めている。


伊田 朋代 「敬語意識と使用状況 ー店員の客に対する言語行動ー」

 今までに敬語についての研究は多くされてきましたが、世の中の動きと共に敬語の基準も変化してきている。そんな中で、現在の敬語の使用状況を調べるために、店員の接客時の言語行動とその意識、またそれに対して客の受け取り方の意識を調べている。調査方法は3つで、まず店員の言語行動を調べるために買物をした時の店員と客の会話を録音、記録した。次に店員と客の敬語に対する意識を調べるために、アルバイト経験のある12人(主に大学生)に面接調査を行い、店員、客それぞれの立場で接客の言語についての質問に答えてもらった。そして3つめの調査として、10店のマニュアルを集め接客の言葉使いに関しての傾向や指導の仕方を分析した。以前は、接客の敬語においてはより敬意の高い言語が求められていたが、現代の若者においては、尊敬表現や謙譲表現よりも、丁寧表現が主となっており、店や状況によっては敬語を使わない接客も許される。それらの意識を接客する側、される側それぞれから分析している。


高木 妃早香 「日本語学習者の方言使用に対する日本人と外国人との意識の違い」

 日本語教育における方言教育の問題点や意識調査は従来の研究でなされており、教師も学習者もそれぞれの立場から方言の必要性を認めている。また、外国人の方言使用に関しては様々なリスクが伴い、そのうちの一つに日本人が否定的な態度をとるということがいわれている。そこで、日本人と外国人に50の関西方言項目を含むアンケートを実施し、その各項目を外国人が使用した場合の日本人の感覚と、外国人の使用と理解状況を職業、出身国、関西での学習暦の有無などを考慮して比較し、どのような項目に否定的態度につながる要因があるのかを調べた。また、他に考えられる要因として、場面による方言使用のきりかえの問題があるが、話す相手との親疎関係とあわせて調査した。これらの結果、自分自身が使わない項目を、外国人が使うことに抵抗があるということ、また外国人の方言使用に際しては親疎関係よりも場面を重視しているということがいえる。


奥村 修世 「『おはよう』の使用範囲における変化」

 学校やアルバイト先で,「おはよう」とか「おはようございます」という挨拶を,昼でも夕方でも,したりされたりします。私は,ファーストフード店でアルバイトをしていたことがあり,出勤時には,何時であっても「おはようございます」という挨拶をするように指導されていたので,特に気になることもなく普通に受け止めていました。周りの友達も,私と同じで気にしている様子もありませんでした。しかし,事務のアルバイトをし始めたとき,年配の人に,夕方に「おはようございます」と挨拶したら,「おかしい」と指摘されたので,疑問に感じ,卒業論文のテーマに選びました。10月に,アンケート調査を,年齢も性別も意識せず,80名に実施しました。アンケートの内容は,アルバイトの経験や,職場での挨拶の指導について等の質問と,ある場面を想定してもらって,その人に挨拶するか,「おはよう」と挨拶されたときの対応と,その場面での「おはよう」の使用についてどう思うかという質問で,全部で67問あり,ほとんどが選択式によるものです。現在,回収分を,パソコンに入力し,集計中です。「おはよう」とちがって,「こんにちは」「こんばんは」という挨拶は,家族に対して使わないのと同じで,親しい間柄では,よそよそしい感じになってしまいます。また,「こんにちは」「こんばんは」には,「おはよう」に対して「おはようございます」のような待遇表現がないので,改まった場面や目上の人に対しては丁寧さに欠ける点があると思います。このようなことから,「こんにちは」「こんばんは」の代わりに,アルバイト先の挨拶の影響などから「おはよう(ございます)」がその使用範囲を広げていると考えています。


杉本 喜久美 「場面における男ことば・女ことばの使い分け ー男同志、女同志、男女混合の場合の違いー」

 日本語には、ヨ−ロッパ諸国にはみられない絶対的な男女差があり、長年多くの研究がなされてきた。一方、欧米では1970年頃から会話分析や談話分析という領域で、男女の会話のパタ−ンの違いについて研究されており、近頃日本語においても研究されるようになってきた。そこで本研究では、談話分析の領域である相づち、重複行為・遮り行為、話題の転換において、男女差だけではなく男同志・女同志・男女混合という場面により、どの様な使い分けがされるかを分析する。資料として、京都産業大学の学生に協力してもらい、男同志3人・女同志2人・男女混合4人の三場面について自然談話を録音し、文字化した。


上農 千鶴 「語呂合わせの構造と使用」

 電話番号や、ポケットベルの暗号、歴史の年号など、日常生活において語呂合わせに触れる機会は決して少なくありません。そして語呂合わせの種類もたくさんあります。その中で私は、特に数字に関する語呂合わせの研究をしています。研究方法は、数字1から9までの読み方を可能な限り記入してもらう、というアンケートによるものと、自分で電話番号、ポケットベルの暗号、歴史の年号などの語呂合わせを244件集めたものによります。これらのデータ分析は、読み方を音読みのものや、訓読みのもの、英語読みのものなど、6種類に分類していくことから始めています。最終的に、数字の語呂合わせで五十音図を作成し、これまでの地口やしゃれ、といった語呂合わせの雑学的な意義が加わることが望まれます。


吉良 智子 「インターネットのホームページにおける方言について ー言語意識を中心にー」

 テレビやラジオなどの放送が普及し、標準語をよく耳にするようになった今、言われ始めたのが「方言の標準語化」や「方言の消滅」といったようなものである。しかしその一方では、現在の最先端をゆくインターネットという手段を用いて、多くの人達が自分たちの方言を紹介している。そのことに興味を持ち、また最近言われ始めたこととの矛盾を感じたので、インターネットに載っている方言のホームページの内容や、ホームページを作っている人達の方言意識について調べ、方言が健在であることを証明しようと思い、只今研究中である。研究方法はインターネットの中で紹介されている全国の方言に関するホームページについて様々な点から分析するというものと、方言のホームページを作っている人達にアンケートを行い、その回答を分析し、方言意識について調べるという2つの方法で行っている。


岩根 由香 「大人の子どもに対するコミュニケーション行動 ー言語行動と非言語行動の関連性ー」

 人はコミュニケ−ションを取るとき、まるで何事も気にしていないかのようにあたかもそれが普通だと考えがちである。しかし、実際は様々な外からの情報をもとにコミュニケ−ション行動をとっている。例えば、家族と話すときと、隣の人と話すときでは言葉遣いも声の質も相手との距離も違ってくるだろう。これと同じように、大人が子どもとコミュニケ−ションをとるとき、明らかに大人同士の時とは違う。すぐに気がつく点は、ゆっくり話す、同じ言葉を何度も繰り返すなどがあげられる。本研究では、言語行動と非言語行動の両方に注目してみる。この2つがどのように関わっているのか、発話行為ごとにどのような表現をしているかについて調査したものである。


増田 径与 「印刷メディアにおける外来語の理解」

 一般に、「日本語の乱れ」ということがよく言われ、その要因の一つとして「外来語の氾濫」があげられる。実際、私たちは日常の中で外来語をよく目にする。では、その外来語を人々はどういう意識のもとで、どんな意味で使っているのだろうか。今回は、外来語が流行語的要素をもっていることから、流行の担い手であり、言語的にも熟してきている20代の男女を対象として調査を行った。主な調査の項目は、外来語の認知・使用率をみるもの、語の意味と例文、生活環境に関する質問・外来語に対する意識に関する質問である。全体の傾向としては、外来語を「わからない」と感じていながらも中立的な態度をとっている人が多く、日本語の一部になっていると考えている人も多い。しかし、お年寄り・教科書・公共機関に外来語がふさわしくないと考えている人が多いことから、「外来語は正しい日本語ではない」という意識がうかがえた。


北本 純子 「社会集団の違いによる若者ことばの使用 ー擬声語・擬態語の畳語ー」

 現代の若者ことばの特徴の1つである擬音語、擬態語の畳語。最近では、人間の行動や感情をそのたった一言で表してしまう。集団の性質の違いが、若者ことばの使用にどのように影響しているかを調査した。また、集団内の言語ボスの存在と、ことばの運び役の存在を調査した。大学2校と専門学校1校の女子学生83名にアンケートを実施した。生活習慣についての質問と語彙項目についての質問に答えてもらった。語彙項目は、ウルウル、ゲロゲロ、ルンルンなどの56語。これらの語を、「よく使う・ときどき使う」・「意味はわかるが使わない」・「意味はわからないが、聞いたことはある」・「意味もわからないし聞いたこともない」・「以前使っていたが、今は使わない」の6段階にわけてもらい使用率を調査した。また、アンケートで親しい友人の名前を2、3人挙げてもらい、人間関係の図を作成し、ことばの流れや、言語ボスの存在を調査した。


木村 清香 「旧植民地における日本語の使用状況 ー南洋群島を中心にー」

 日本では多々なる外国語が借用され、その借用語の数は年々増えており、研究もよくされている。それに対して、海外で借用されている日本語の研究ははるかに少ない。そこで私は、借用の度合いの著しい、かつての日本の植民地であるトラック諸島で使用されているトラック語における借用語としての日本語に注目した。そしてどういった種類のことばが特に借用されているか、トラック語に取り入れられた時、どのような発音の変化をするのかについて考察する。調査対象はTrukese-English Dictionary (Ward H. Goodenough Hiroshi Sugita)とする。これに掲載されている日本語からの由来と思われる語には(Jap.)とあるので、その語を抜き出し、分析する。