内海定治郎著、昭和8年(1933)・士道教育研究会刊。著者は赤穂出身で、終生の事業として赤穂事件の研究に打ち込んだ。本書は全国に散在する事件の遺跡を調べ、且つ新史料の蒐集に努め、17年の歳月を懸けて完成した研究書である。高度な内容ながら文章は平易で客観的である。諸史料を表に纏めてあり、諸史料との比較もしてあって便利である。また当時は余り触れられていなかった赤穂藩浅野氏の財政についても言及してある。更に事件以後の事件研究史を概観した点で先駆をなすものであった。現段階の研究レベルから見ると若干の誤謬はあるが、史実に忠実な研究書としては重野安繹・福本日南に次ぐものであり、前二者よりも客観的で史実面でも進歩している。
項目 | 記 事 |
---|---|
口絵 | 飛行機上から見た赤穂城址・浅野家時代の赤穂町地図・花岳寺大石良雄木像・花岳寺吉田兼亮木像・花岳寺大高忠雄木像・花岳寺大石良金木像・山鹿素行先生銅像・赤穂城大手門・赤穂城塩屋門・大石神社・大石良雄遺愛の桜・花岳寺・花岳寺忠義塚・浅野長直墓所・浅野長友墓所・観音寺薦誠碑・泉岳寺義士墓・花岳寺義士墓・高野山浅野長矩供養塔・瑞光院浅野長矩供養塔・山科大石隠棲地及び岩屋寺・豊岡正福寺・滋賀県大石屋敷跡・国泰寺大石家墓地・高光寺原元辰筆法華経・新発田長徳寺・近松行重生家・萱野三平旧邸・赤穂正福寺・正福寺良雪和尚墓・吉良菩提寺萬昌院・吉良義央墓・元禄13年江戸浅野邸・元禄元年大坂浅野邸・元禄13年吉良邸・吉良家本所屋敷図・元禄時代赤穂城之図・浅野家時代赤穂町図・綱吉公時代江戸城御本丸表御殿之図・吉良上野介屋敷図・ |
序文 | 三上参次(昭和8年11月10日)・文学博士 中村孝也(昭和8年11月)・赤穂義士会長陸軍少将 武川壽輔(昭和8年11月)・前兵庫県姫路師範学校長 野口援太郎(昭和8年11月) |
はしがき | 著者(昭和8年11月10日) |
- | 緒言 |
第1章 浅野家 | @浅野家の父祖とその親戚 |
A城下町赤穂と浅野家転封 | |
B浅野長直の治績 | |
C山鹿素行 | |
D浅野長矩の人物と其事業 | |
E浅野家の領地 | |
F浅野家の民政と財政 | |
G浅野藩士とその士風 | |
H浅野家の姻戚 | |
第2章 吉良家 | @吉良義央の父祖 |
A吉良義央の事蹟と人物 | |
B義央の領土と郷里に於ける事蹟 | |
C義央の実相 | |
D義央の親戚 | |
G浅野藩士とその士風 | |
第3章 大石内蔵助 | @大石内蔵助の父祖 |
A大石内蔵助とその人物 | |
B大石家の親戚 | |
第4章 勅使参向 | @勅使参向の沿革 |
A年頭勅使参向 | |
B元禄事件当時の幕府の有司 | |
C御馳走役任命と赤穂藩 | |
第5章 殿中の刃傷 | @吉良浅野の確執 |
A殿中の刃傷 | |
B内匠頭の切腹 | |
C浅野家の処分 | |
D大学の閉門と江戸屋敷引渡 | |
E判物等の返上と浅野家財産の処分 | |
F義央の傷と当時の世評 | |
G受城使の任命 | |
第6章 赤穂城中会議 | @江戸の変報 |
A赤穂藩の財政と藩札の引換 | |
B上野介の生死と両家老の意見 | |
C城中会議と歎願使の派遣 | |
D最初の連盟 | |
E公金の分配 | |
F義士来往 | |
第7章 開城諭告使の派遣 | @赤穂への諭告使 |
A戸田家第一回の使者派遣 | |
B赤穂藩より江戸への使者 | |
C浅野本家・戸田家の諭告使 | |
Dたよりない内蔵助の請書 | |
第8章 最後の城中会議 | @歎願使の帰着 |
A藩士の引払と大野の逃亡 | |
B堀部安兵衛等の来会 | |
C諸寺院に寄附 | |
第9章 赤穂開城 | @官使の来着 |
A諸使の臨検 | |
B赤穂開城 | |
C使者の退散と一藩の離散 | |
D残務の処理 | |
第10章 内蔵助山科隠栖 | @高野山に建碑 |
A主家再興運動と遠林寺祐海 | |
B内蔵助の山科隠棲 | |
C紫野瑞光院 | |
D不甲斐なき藩の重臣 | |
E江戸三士の催促 | |
F大石・堀部の意見 | |
第11章 大石内蔵助の東下 | @大石内蔵助の東下 |
A山科に於ける連判 | |
B其後の吉良上野介 | |
C再び江戸二士の催促 | |
D高田郡兵衛の背盟と萱野三平の自刃 | |
第12章 江戸急進派の鎮撫 | @原・大高の帰京 |
A山科会議と吉田忠左衛門の東下 | |
B大石一家の離別と内蔵助の濫行 | |
C仇家の探偵と僧祐海の奔走 | |
D急進派の計画 | |
第13章 義士の東下 | @大学の左遷と円山会議 |
A隅田川舟中会議 | |
B脱盟者続出 | |
C吉良家の警戒と内蔵助の濫行 | |
D内蔵助出府の妨害 | |
E東下りの催促と同志の出府 | |
第14章 内蔵助再度の東下 | @内蔵助再度の東下 |
A同志の仮寓と最後の変節漢 | |
B打入綱領 | |
C讐家の偵察 | |
D隠れたる後援者荷田春満 | |
E公金の処分 | |
F一党の趣意書 | |
第15章 義士打入と引揚 | @義士打入の装束 |
A一党の出発と其部署 | |
B義士の打入 | |
C義士の引揚 | |
D泉岳寺に於ける義士 | |
E仙石邸への自首 | |
F吉良邸の検分 | |
G上杉家の躊躇 | |
第16章 四家御預中の義士 | @諸士の引渡 |
A諸士の待遇 | |
B堀内覚書と細川家に於ける義士 | |
C諸士の処分論 | |
第17章 義士の切腹 | @一党への宣告 |
A諸士の切腹 | |
B諸士の埋葬 | |
C遺子の処分 | |
D吉良義周の流謫 | |
E義士余沢 | |
第18章 義士側面観 | @事件関係の人々 |
A血縁から見た義士 | |
B義士中の歌人俳人 | |
C義士と女性 | |
D義士の後援者 | |
E不義士の末路 | |
F経済上から見た義士 | |
G寺坂吉右衛門の逃亡説 | |
第19章 義士研究の歴史 | @義士論議時代 |
A忠臣蔵時代 | |
B義士伝集成時代 | |
C史的研究時代 | |
第20章 全国に於ける義士の遺蹟 | @赤穂地方 |
A東京地方 | |
A東京地方 | |
B近畿地方 | |
C本州中部地方 | |
D中国・四国・九州地方 | |
E全国に於ける義士会 | |
結論 | - |
年譜 | |
赤穂浅野藩年譜 | |
義挙年譜 | |
拾穂 |
内容的には現在から見れば誤謬が若干見られるものの、目次からみてもわかるように赤穂事件を総合的に纏めようとしている点はそれまでの事件関係の文献にはなかったものであり、現在でもこの書の価値は重たい。
(010 2000/09/09)
(2002/10/8)
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