「北京ダックを知るには、飼育場も見学しなくちゃね!」。ということで、編集部では、北京最大の北京ダックの生産基地「北京前魯鴨場」に取材を申し込んだ。
北京の中心部から車で一時間ほど北上すると、辺りは一面の農業地帯だ。そんな農業地帯で、突然目に飛び込んでくる大きな白壁で囲まれた建物がある。そこが「北京前魯鴨場」である。前魯鴨場では、年間約六〇〇万羽のアヒルを孵化させ、約四〇〇万羽を屠殺している。しかしここでは、養鶏場のように、一羽ずつが小さなボックスに入れられ、時間が来るごとに飼料を与えているわけではなかった。ここは飼育場ではなく、種アヒルの飼育、アヒルの孵化・飼育者への飼育委託、屠殺、各種加工などを行う、「生産基地」と呼ぶにふさわしい工場だったからだ。
アヒルを育てるのは、基本的に農民だ。前魯鴨場では、近辺の農民にアヒルの雛鳥の飼育を委託し、指定した重量のアヒルを指定した期日に受け取るシステムを作り上げている。農民には、雛鳥と合わせて、前魯鴨場が独自にとうもろこし、豆類、小麦、大麦、魚粉、高粱、動物性・植物性タンパク質、カルシウムなどを配合した飼料を提供し、餌の与え方なども指導している。
委託先は農家でも、実際にアヒルを育てるのは、農家の主婦。自分の夫が農作業をしている空いた時間に、北京ダックを育てているわけだ。このシステムは、前魯鴨場にも農民にもメリットがある。なぜなら、前魯鴨場は、万が一、疫病が発生した時に、分散して生活している農民に委託することで、アヒルの全滅を防ぐことができる。農民は、時間を有効に利用し、現金収入を得られるからだ。ちなみに農民は、前魯鴨場が指定した期間、重量を守って成鳥を納入した場合、一羽につき二元程度の報酬を得られる。しかし、±数100グラムの誤差があるだけで、前魯鴨場は買い取りを拒否するという。料理店でも、指定した重量のものしか買い取らないからだ。農民に厳しいシステムに見えるが、実際は疫病の発生などによるリスク、飼料の提供、飼育方法の教育は、すべて前魯鴨場が負っているため、双方のメリットが保たれている。
アヒルの飼育は、以下のような段階がある。
農家での飼育の流れ(例)
@ 雛鳥の誕生 前魯鴨場から委託される
A 〜21日目 高タンパクの飼料を与える
B 〜35日目 放し飼い(自由に育てる)
C 〜契約日(50日程度) 高エネルギーの飼料を与える(飼料の「詰め込み」)・納入
「填鴨」の由来である、強制的な飼料の「詰め込み」は、Cで行う。Cは、成鳥になった段階で、この時期に強制的に食べさせることで、脂肪が発達し、おいしい肉ができるという。この強制的な「詰め込み」は、一日四回、六時間ごと、約二〇〇羽に対して二週間連続で行わなければならず、体力的に大変な仕事だ。主婦一人が前魯鴨場から引き受ける数は、年間で合計約二千羽にのぼる。
前魯鴨場の黄礼総経理は、「アヒルの飼育は、非常に手が掛かる。根気のある農民でなければ絶対にできない」と、自分一代で築き上げた大生産基地の屋台骨は農民であると話し、また、「これだけ多くのアヒルを飼育するのは、子守が得意で面倒見が良く、思いやりがある人が最適。一羽一羽に飼料を与えていく中で、アヒルの体調などがわからないと、良いアヒルは育たないですから」と、アヒル飼育には、人的要素が大きく影響することを強調していた。
協
力 北京前魯鴨場(順義県前魯北小営鎮)
TEL.
010-6948-3203,010-6948-4015 FAX .010-6948-3203
北京ダックの種アヒル。疫病への感染 飼育場に入るには、まず、車ごと消毒液の
を防ぐため、通常は見学禁止。
入った水溜りを通過する。ダックの加工工場。
衛生上の問題から、見学は許可されなかった。
※「kao」は、「火」へんに、「鳥」