気が遠くなりかけて、医者を呼んだ。私は蒲団のま
まで寝台車に乗せられ、阿佐ヶ谷の外科病院に運ば
れた。
『東京八景』
私がそれから一つきほど経って阿佐ヶ谷の先生のお
宅へ立寄ってみたら、先生は已に一ぱしの動物学者
になりすましていた。
『黄村先生言行録』
ひとり首肯してその夜の稽古は打止めに致し、帰途
は鳴瀬医院に立寄って耳の診察を乞い、鼓膜は別に
何ともなっていませんとの診断を得てほっと致し、
さらに勇気百倍、阿佐ヶ谷の省線踏切の傍なる屋台
店にずいとはいり申候。
『花吹雪』
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省線の阿佐ヶ谷駅で降りて、南側の改札口を出た時、
私の名を呼ばれた。二人の学生が立っている。いず
れも黄村先生のお弟子の文科大学生であって、私と
は既に顔馴染のひとたちである。
『不審庵』
「阿佐ヶ谷ですよ、きっと。阿佐ヶ谷駅の北口をま
っすぐいらして、そうですね、一丁半かな?金物屋
さんがありますから、そこから右へはいって、半丁
かな?柳やという小料理屋がありますからね、先生、
このごろは柳やのおステさんと大あつあつで、いり
びたりだ、かなわねえ」
駅へ行き、切符を買い、東京行きの省線に乗り、
阿佐ヶ谷駅で降りて、北口、約一丁半、金物屋さん
のところから右へ曲がって半丁、柳やは、ひっそり
していた。
『斜陽』
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